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エッセイ・コラム

三千大千世界

斉藤 征雄

 仏教では、宇宙の総体を三千大千世界という。われわれの住むこの世界は宇宙を構成する一つの単位つまり小世界にすぎず、それが千個集まって小千世界をつくり、小千世界が千個集まって中千世界をつくり、さらに中千世界が千個集まって三千大千世界を成すという。算術的にいえば、三千大千世界には小世界が1000の三乗個すなわち十億個集まっているということになる。

 無限に広がる暗黒の空間にあるときわずかな風がおこって「生命のもと」が働き出す。それは次第に形を成して大気の層となって激しい雨をもたらす。雨はやがて水の層を形成しその一部が固まって大地ができてくる。その大地の上に生きとし生けるものが発生してこの世界が創り上げられる。世界の中心には須弥山という山がそびえ、それを外輪山が取り囲む。その外側には海があってさらに外輪山がある。海の中に四つの大陸がある。こうした地表の世界を欲界という。
 空中には太陽と月が廻り、須弥山の山頂付近には天界がある。天界には物質が存在する色界と精神的な世界である無色界がある。欲界、色界、無色界を三界という。「三界に家なし」とはここからきたのである。地下には八寒八熱の地獄がある。
 このような世界の中で、いのちあるものは地獄、餓鬼、阿修羅、畜生、人間、天を経めぐって生死を繰り返す。いわゆる輪廻である。天の神とても輪廻を免れないのである。死後、何に生まれ変わるかは前世の業によって決まる。
 こうした小世界は、一定の期間持続したあとは破滅の過程に入る。生物は次第に消滅して、最後は灼熱の太陽が山野を焼けつくして自然は無に帰する。「生命のもと」は尽き果ててその世界は再び無限に広がる暗黒の空無に戻るのである。小世界が形成、持続、破滅、空無の四つの過程をめぐる周期は十二億八千万年ほどという。だから、三千大千世界では一年ちょっとで一つぐらいこの小世界の生滅が起きていることになる。

 古代インドの人びとの宇宙観を仏教が取り入れたと考えられるが壮大である。そして世界の始まりを神の天地創造ではなく、世界を創り出すエネルギーのもとが、すでに存在する三千大千世界のいずこかから涌き出てくるという発想に驚かされる。

(仏教学習ノート③)

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