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エッセイ・コラム

お年玉を貰いました!

西川 武彦

 昨年喜寿を迎えた後期高齢者が、今年のお正月にお年玉を貰った。下さったのは、現役時代の先輩。頓珍漢な話だが、頂戴した年賀状でなんと一等賞が当たったのだ。

 お年玉葉書が生まれたのは、1949年12月。昭和25年(1950年)の年賀状である。終戦後で通信手段が十分でなかった時代、富籤付きの年賀状の復活で、出来るだけ多くの人が消息を分かり合えるようになれば…、との発想で、民間人が考案したとか。
 当初、二億枚足らずだった発行枚数は、高成長時代を経て、2015年にはなんと34億枚というから凄い。

 郵政民営化の頃には、一等賞品は、海外旅行・国内旅行・マッサージチェア・ノートパソコン等々と豪華だったが、2015年は福澤諭吉さんが一枚だけで、有難味には雲泥の差がある。確率も、豪華景品時代の一等は百万枚に一枚だったのが、今では十万枚に一枚である。
 飛び上がるほど喜んだわけではないが、2月の初め、ピン札の香りと感触を期待しながら、最寄りの郵便局に足を運んだ。ところが、窓口の対応は厄介だった。
 切手なら葉書に判を捺すだけで、その場でくれるのだが、万札となるとそうはいかないらしい。即支給はまかりならぬという。運転免許証で本人確認をさせられ、所定の書類になにかと記入させられた上、用意が出来たら一カ月後に電話でお知らせします、とのたまうではないか。
 日銭商売しているから現ナマがないはずはない。お役所仕事にむかついたが、こちらも日銭に困るほどではないので、作り笑いで「分かりました」と引き上げた。
 一カ月後、外出から戻ると、連れ合いが、「郵便局から電話があったわよ、また電話するって…」という。やっと貰えるのだ。しばらくして電話が鳴った。「ご本人様ですね、手続きが終わりましたので、ご来局下さい…」という。葉書と身分証明と印鑑がいるという。
 雨上がりにいそいそと足を運ぶ。一カ月前と同じ局員から、運転免許証で再度本人と確認されたあと、受取書に署名捺印。『平成27年用お年玉付年賀はがき・切手一等賞品、おめでとうございます』と書かれた封筒を、やっと拝受した。「中味をお確かめ下さい」と物々しい。恐る恐る糊をはがすとピン札が姿を現わした。
 懐にしっかり収めると、銀行に向かい、「振り込み詐欺にはご注意を…」と、大きなビラが睨むなか、しっかりと自分の口座に預け入れた。
「仕事」が終わったので、お年玉を下さった北海道在住の会社の先輩に℡、感謝をこめて、事の次第をご報告申し上げた。
「…いやあ、それはよかったね。ところで、偶然だけど今日は小生の誕生日なんだ。一億円ならお祝いを貰ってもよいけど、福澤さん一枚ではね…。今度ススキノで一杯やるか……」。

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