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エッセイ・コラム

出世する人、しない人

都甲 昌利

 4月は大学や高校の卒業生が心をときめかして会社に入社し、社長の訓示などを受けるシーズンである。就職が決まった人は是非参考として頂きたい。
 私は約40年間サラリーマンとして会社という組織の中で働いてきた。私は取り立てて自慢する才能もなく、ひけらかす学もない。ありふれた仕事をして、あるときはトラブルにも巻き込まれた時もあり、大して出世もしないで定年退職を迎えた。その間いろいろな人間を観察した。それらを垣間見ていると、「出世する人」と「しない人」の違いがはっきり見えてきた。

 まず、出世する人の特徴は「仕事ができない」ということだ。奇異に聞こえるかもしれないが、私の周りにも仕事ができる、有能な多くの人材がいた。彼らは意外にも出世をしていない。反対に「この人絶対に社長や役員にはなれないな」と思った人が次々と役員や社長の要職に就いたりするのである。

 何故なのだろう? 出世する人の立ち居振舞いを見てみると、「仕事ができない」というより、「できない」ことをことさら強調する。自分ではできないので人にやってもらう他はなく、それを自覚するがゆえに愛想がよく、周りも思わず手を貸して援助したくなるのである。いつも笑顔で人に接し憎めない。愛嬌がよく、一様に腰が低く、感謝の気持ちを忘れない。こういう人がリーダーになると組織は活性化する。会議で彼がダメなアイデアを提案する。部下たちは「そんなのダメですよ」と言い、もっと良いアイデアを次々と出す。リーダーがダメだから俺たちが頑張ってあげようと、優越感とともに能力以上の成果を上げたりするのである。
 逆に、リーダーが「できる人」だと部下は従うしかない。部下はミスを犯さないように萎縮するのでこれ以上良いアイデアも生まれない。常に斬新なアイデアが求められる組織においてなんの利益にもならないのである。リーダーには統率力や決断力が必要と言われるが、本当に必要なのは本人の能力よりも、人の能力を引き出す「引力」なのである。

 私などは部下がトロトロと仕事をしているのを見ると、見かねて自分でやってしまうところがある。待てないのである。部下の能力を引き出せないのである。だから出世をしなかった。
 組織の中には重要な職人が多くいる。そういう人たちが会社を辞めるとき「私は損をした」と言わないような組織であり会社であってほしい。了

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