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エッセイ・コラム

毎日見れば医者要らず

平尾 富男

 然るお堅い学者先生によると、「動物の世界では、乳房が発達したメスは子供を持っている。言い換えれば新たな子供を作れない状態にあり、そのようなメスはオスの求愛の対象になり得ない。従って、求愛の対象外のサインとなる“発達した乳房”が、性的魅力を持ち得るはずがない」という。
 でも、これは人間界には全く当て嵌まらないようです。

 数年前になりますが、『ヘンダーソン夫人の贈り物』というイギリス映画を観ました。戦争に駆り立てられていく若い兵士たちに束の間の楽しみを与えるという場面で、ヌード姿の若い女性が映画の中の舞台に大勢踊り出てきます。素晴らしい乳房の群舞は、若き出征兵士たちにとって明日をも知れぬ死の恐怖を瞬時でも忘れさせてくれる贈り物になっていたのです。(この映画は2005年制作、ジュディ・デンチ主演で、英国初のヌード・レヴューを提供した実在の人物、富豪の未亡人ヘンダーソン夫人を描いたもの。)

 そういえば昔読んだ英文記事に、「女性の乳房を10分見つめることは30分間のエアロビクス運動と同じ健康上の効果がある」とありました。ドイツで行われた調査を基に、ふくよかな美しい乳房をいとおしんで毎日見つめる男性は、その恩寵に預かれない男性と比較して、血圧が低く心臓病に罹患する率も低いという結果が出たというのです。

 「性的興奮は心臓の血流循環運動を促進するのだから、乳房を凝視することは男性の健康増進に役立つことは自明である」。調査を行った医師の言葉は更に続き、この行為を毎日数分間行うと脳出血や心臓発作の危険を半分に軽減し、男性の寿命を少なくとも4、5年は延ばすと断言していました。

 一方で、この記事に反論する投書も少なくなかったのです。「見るだけだったら、フラストレーションが嵩じて精神面で悪影響を与えるだろうに」との苦言もありました。

 記事には、実物でなければ駄目なのか、写真でも同じ効果が得られるのかが記されていません。写真を見ても血流循環が促進するとは思えません。逆に、若くて見目麗しい本物を見たら却って心臓に悪いような気がします。毎日見るためには莫大なお金も掛かりそうです。

 平均的な日本人にとっては、重力に耐えられずに垂れ下がり、伸び切ってぺしゃんこになって壁に張り付いた焼餅のようなものを、その持ち主がパジャマに着替える際にこっそり見ることが分相応なのでしょう。
 でも、これでは健康には何の役にも立ちません。

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