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エッセイ・コラム

もういちど日本

西川 武彦

 NHKの朝ドラがBSで始まる前に、「もういちど日本」という5分番組がある。新日本風土記の流れで、テーマは、全国の景勝地、食、建築、工芸、自然・風習など多種多彩。テーマを絞って放映する。懐かしい、心洗われるような風景、情景に溢れる。日本がいかに素晴らしい国かを思い出させてくれて嬉しい。
 その魅力ある日本に、昨年は年間1340万人の外国人が訪れた。今年は40%増のペースというから、年間で1800万を超えるかもしれない。東京五輪が決定した時、政府は2020年の来日訪客目標を2千万に置いたが、今のペースなら、3千万も夢ではない。3千万といえば江戸時代の人口である。
 急増の背景には1ドルが125円を超える円安があると報道されたので、その関係を十年区切りで調べてみた。
 バブルが弾けた頃の1990年にはUSD=145円で、訪日外客は325万、十年後の2000年は108円・480万人、2002年は今と同じ125円で530万人。為替は余り関係ないようである。数字は一貫して右肩上がり。過去数年では、台湾を含めた中韓からが激増している。雲行きが少し怪しい二国間情勢とは裏腹に訪客は急増しているのだ。アジア以外の世界各地からの訪客もハイペースで増えている。都内の「観光地」は、外国人だらけといっても過言ではないほどだ。
 その昔、1965年にJALパックが発売されると、日本人の海外渡航者が倍倍ゲームで増えたのに似て、為替に関係なく、流れが変わったのである。
 そんな流れを酌んで、政府は訪日外国人による旅行消費額の目標を、年間二兆円(2014年推計)から四兆円に倍増したという。これに伴い40万人の雇用も。 物づくりなどを柱として経済成長のバブル再来はないだろうが、成熟して魅力を増したジャパン、美しい自然、文化、歴史等々に溢れる日本を観てお金を落としてくれ、日本を知り、理解してくれる外国人が増えるのを大歓迎したい。

 一方では、鎖国・排他的ではないものの、右を向いた「もういちど日本」の風潮がないとはいえない。積極的平和主義、集団的自衛権、憲法改定、軍備拡大……。
 二極時代は疾うに去り、一極と思われた米国が中東などでの失敗もあって国力が落ち、中国の力が急伸してアジアを席巻せんとする時代に入っている。南シナ海、尖閣だけではない、太平洋の島々だって巻き込まれないとはいえまい。
 そんな情勢下で、日米安保を見直し、独自の軍事力のしかるべき強化を計るのは避けられないだろうが、国会で議論する前に、米国の上下合同会議で、特別の「おもてなし」に酔って大事をコミットするトップがおられるから、国民もうかうかできない。
 他方、国連常任理事国入りへの指向、あるいは各種協力等々で各国首脳の招聘、あるいは外交が今までにないほど増えており、これらが国際情報力強化、緊急連絡網などに繋がることは期待したい。ただし、安保「事態」の大安売り、立憲主義に反しての解釈変更、政権裁量の拡大、国会での不誠実な質疑などを観ていると、なぜか怖いのである。
 ナショナリズムの突っ張り合いを続ける中、ある偶然で大崩壊が始まった世界大戦、近現代史で、戦前の首相、陸海軍のトップなどの暴走等を繰り返し読みながら、違う意見に聞く耳をもたない(それを理解できない?)権力者や体制が怖い、と隠居は呟いている。

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