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エッセイ・コラム

家出のすすめ

内田 満夫

 定年になったがやることがないとお嘆きの企業戦士OB諸兄には、異空間への「家出」を勧めたい。
 家出とは、家族や仕事仲間やご近所などの、日常の人間関係から脱出することだ。抜け出して自分だけの世界、異空間づくりを楽しむのである。少々の小遣いがあれば、誰にでも、いつでも、すぐにできる。私の実践している楽しみ方を紹介しよう。
 要は「時どき家出をして、カルチャースポットを中心に街歩きを楽しむ」、だけのことである。それだけのことだが、これが健康、楽しみ、友だちづくりの嬉しい一石三鳥なのだ。「時どき」とは週に二回ていど、日常世界と異空間を行き来するのがよいだろう。「カルチャー」を掲げるのは、それが心の糧になるからだ。「街歩き」では、ウォークで足腰を鍛え、新しい知り合いを積極的につくる。
 家出だから、もちろん単独行が原則だ。一日単位の街歩きツアーを自分で計画し、自分で自分をエンタメする。めぐるスポットは、自分の手持ちの趣味と興味、嗜好を中心に選ぶ。たとえば図書館、美術館、博物館、街角ギャラリー、映画館、ホール、名所・旧跡などのカルチャースポットをメインに、珍しい催しもの、無料体験、話題の場所など。これに用足し、飲食、休憩などのつなぎのスポットを組み合わせて行程をつくる。自分だけの異空間は蜜の味だ。趣味の幅が次第に広がり、顔見知りがだんだん増え、交友の輪ができていくのが無性に楽しい。
 如何だろうか。限られた原資(小遣い)で、事業(街歩きツアー)を展開し、最大の利益(楽しさ、満足)を目ざすのだ。企業の事業活動にそっくりである。この家出・異空間遊びは、「仕事が趣味」を自称するかつての企業戦士にはうってつけだ。もちろんどこからも成果の追求を受けることはない。
 誰にでもできる楽しみ方ではあるが、ひとつだけ条件がある。「好奇」の精神(こころ)と、それを実行にうつす「遊び心」だ。これだけは自分で自分に点火しない限り何も始まらない。

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