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エッセイ・コラム

今、福岡が熱い

濱田 優(ゆたか)

「AKB48がよくてHKT48に行くと左遷とか、菅原道真が残念ながら大宰府に左遷されたとか、福岡は左遷のイメージだった」
 と語るのは、福岡市長の高島宗一郎(41)氏である。私も永らくそう思っていた。ところが、「その左遷から移住にいま変わっているんですよ」と市長は言葉を逆につなぐ。
 本当に? 遅ればせながら調べてみると、主要都市のなかで福岡市は人口増加率が群を抜いて高く、今、もっとも勢いのある都市と知り、己の寡聞を恥じた。
 福岡市の人口は、153万人台で20政令市の6位だが、この年明けに出る国勢調査の速報値で、人口漸減傾向の神戸を抜き去り、5位になるのは確実しという。ちなみに1位は横浜で372万人、以下大阪、名古屋、札幌の順で、東京は特別区制度で別扱いである。
 日本の人口減少が問題になっているとき、福岡市はなぜ成長を続けているのか。
 市民局がまとめた調査によると、出生が死亡を上回る自然増もあるが、急速に増えているのは、市長がいう通り、移住などによる社会増だ。九州各地から安定した移住が続く一方、震災以降、首都圏などへの転出が減少したことがその理由にあげられている。ことに、若年層の転入の動きは顕著で、若者(15~29歳)の人口比率は19.2%で全国一、しかも男性より女性が多いというから年甲斐もなく心ときめく。

 福岡に若者が集まる理由の1つは、大学、短大や専門学校の多さにあると聞く。
 同市は、大学を社会・産業インフラの一つとしてとらえ、産官学あげて「大学のまち福岡」を目指している。その結果、九州大学をはじめ数多くの大学や短大のキャンパスがここに集積し、九州各地などから若者が集まってきた。今や、日本全国でも有数の大学のまちになり、約8万人の学生が学んでいる。

 だが、いくら学生が集まっても、〝学園都市〟に止まっていれば卒業生は関東や関西の大きな経済圏に流出してしまい、地元の発展にはつながらない。
 その点、創業特区の指定を受けた福岡市は、時代の先端を行く企業の育成や誘致に大いに努めて、孫たちに大人気の「妖怪ウォッチ」のレベルファイブやプロジェクト管理ツールのヌーラボなどのIT・コンテンツ系を中心に生きのいい企業が数多く育ち、サイバーエージェントやケンコーコムなど時流にのる有力企業が本社機能の一部や開発部門を移す動きも活発という。
 多くの有望企業が若者を求めているのだ。

 福岡はまた、食費や家賃などの生活費が安く、コンパクトな都市で交通の便もよくて暮らしやすい。その上、海や山に近く、市内では音楽ライブやファッションショウなどのイベントが目白押しで若い人たちを惹きつける。
 このまちで職を得た若い人たちが、結婚して、子供を儲けるようになれば、福岡の先行きは長期的に明るい。

 福岡の交通の利便性については前から聞いていた。
 福岡空港は都心に近く、発展を続けるアジアへの玄関口として存在感を高めている。ビジネスの海外展開に注力する会社には格好の拠点として注目されている。
 博多港も空港と同様に発展し外国人旅客数は日本一。外貿コンテナ取扱も国内有数の港湾であり、整備拡張を急いでいる。
 また、九州新幹線の鹿児島ルートが5年前に開通して、九州内の各都市間の所要時間が劇的に縮まり、関西、中国圏との流動も高まった。
 ただ交通網の整備が進むと、大都会に地方の人が吸い上げられる〝ストロー効果〟が生じて、格差が激しくなると警戒する向きもある。確かに福岡市が独り勝ちになることのマイナス面にも目を配ることは必要だが、〝角を矯めて牛を殺す〟愚は避けたい。

 昭和人(びと)の私が働き盛りだった高度経済成長期には、九州最大の工業地帯は重化学工業群を擁する北九州市で、福岡市より人口も多く、先に政令都市に指定された。それが70年代後半からの産業構造変化とともに人は移動し、79年に同市の人口は福岡市に抜かれて、今は100万人を切り漸減傾向をたどっている。
〈昔の福岡市は商業のまちで、支店の都市だったのに……〉という昭和人の今昔の感は横に置いて、福岡市は世界を相手に頑張ってさらなる発展を遂げて貰いたい。

 最後に、福岡の活性化の効果がスポーツやエンタメにも及んでいる、というお話。
 プロ野球でソフトバンクホークスが2年連続日本一になった。ことに昨年はぶっち切りの優勝で日本に敵なしの勢いである。私は昔、熱烈なファンが「神様、仏様、稲尾様」と祈った西鉄ライオンズ時代が忘れられない。チームの生い立ちは異なるが、関東、関西の名門球団を寄せ付けずに連覇を遂げたホークスに「あっぱれ」をあげたい。この快進撃は、地元の力強い応援があってのことだが、同時に福岡市民を元気づけた。
 冒頭の左遷話で、藤原時平の中傷で大宰府に左遷された菅原道真は、配所で恨みを抱きつつ没した。没後、彼の怨霊の暴れ方は凄まじかったそうだ。北野天神縁起を読むと、そこまでやるかと正直辟易する。
 それに引き換え、AKBのさっしー(指原莉乃)は、HKT(博多)への左遷をバネに飛躍を遂げ、昨年の総選挙では自ら首位に返り咲くとともに、チームのメンバーを大躍進させた。彼女の左遷に同情した博多はもちろん中国のファンも取り込んだ成果というから、これも「あっぱれ」だ。
 天神様になった道真より、さっしーの方が逆境時の処し方は一枚上手、といったら神罰が当たるだろうか。

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