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エッセイ・コラム

あさが来た!

西川 武彦

 NHKの朝ドラ『あさが来た』が絶好調である。視聴率は25%を上回る勢いだ。
 ヒロイン・白岡あさのモデルは、京都の豪商・小石川三井家の四女で、大阪を拠点に活躍した実業家の広岡朝子。幕末に生まれ、大阪の豪商(両替屋)に嫁ぐ。これを起点に、日本人の女性が表舞台に出ることがなかった明治から大正にかけて、企業経営者として、炭鉱、銀行、生命保険会社などの起業を進めた。
 日本で初めての女子大学をつくり、女性起業家のパイオニアとして、社会にも貢献する。波乱万丈を乗り越えて大きく成長する「あさ」の生きざまは、「びっくりポン」である。
 大正時代に、彼女の御殿場の別荘に招かれて薫陶を受けた女性には、村岡花子や市川房枝もいる。ドラマには、大久保利通、五代友厚、福澤諭吉、渋沢栄一、大隈重信など時代を動かした群像も現われて、なぜか爽快である。

「あさが来た」の主題曲は『365日の紙飛行機』。秋元康の歌詞には、「朝が来ると新しい世界が始まる」という思いがこめられているとかで、このドラマに「ぴったりポン」だ。
 AKB48が歌うというので、当初はちょっぴり不安もあったが、若く明るい歌声は劇を盛り上げている感じで、高視聴率を支えているかもしれない。
 長い歌詞だが、出だし部分をご紹介すると、「朝の空を見上げて、今日という一日が笑顔でいられるように、そっとお願いした。時には雨も降って涙も溢れるけど、思い通りにならない日は、明日頑張ろう。ずーっと見ている夢は、わたしがもう一人いて、やりたいこと、すきなように自由にできる夢。人生は紙飛行機 願い乗せて飛んでゆくよ、風の中を力のかぎりただ進むだけ……」。

 ご隠居こと筆者が属する男声合唱団「シンサーンズ」は、目下この歌を練習している。
 朝ドラが後半の盛り上がりを見せる三月初め、都内の合唱祭に特別出演してご披露する予定だ。平均年齢70歳前後の企業OBたちで構成する合唱団は、40年余り前、英国領だった香港の日本人倶楽部で誕生した。当時の名称は、The Ventures にあやかって、ザ・シンサーンズ。広東語の先生(英語のMr)で、我々の印象からいえば、「野郎ども」といった感じか。 
 その後、日本に戻った仲間が中心となって再結成、今では40名の合唱団に育った。サントリーホールとかオペラシテイの小ホールで定演するレベルだ。
 毎週一回、新大久保の韓流・イケメン通りで、二時間練習している。それが跳ねると、反省会と称する飲み会に流れる。他の合唱グループから誘われて掛け持ちする達人が多いが、お酒も大好きな粋な高齢者軍団。筆者のヴォーカルカルテット「ダンデイフォー」も、あるきっかけでそこから生まれた。
 メンバーの多くは、「あさ」に似て、夫々の人生で、新しいものに挑戦し続けてきた紙飛行機のような「野郎ども」である。否、我らには美人のピアノ伴奏者がおり、彼女に惹かれて一生懸命声を張り上げている節もあるから、「あさ」のご主人で、美人の三味線の師匠と親しくする「新次郎」の方に似ているかもしれない。
「あさが来た」の演奏には一段と熱が入っているようだ、とご隠居は呟いている。

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