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エッセイ・コラム

喜寿の引越し 引越し屋はすごい

大平 忠

 3月14日、朝から雨、真冬のように寒い日だ。この日は、横浜の32年間住んだマンションから家財道具を福岡へ送り出す日である。引越しはサカイ引越センターに頼んだ。

 朝8時きっちり、リーダーに率いられて若者が4人、全部で5人現れた。概ね私よりも身体が大きい。そんなに身長が変わらない若者も胸と腕が逞しい。リーダーは30代後半か40代前半か。挨拶と簡単な打ち合わせの後、作業が始まった。5人は大きな箪笥などをまず梱包することから開始し、梱包が終わるや担ぎ出して行く。梱包するも運ぶのもすべて動作が速い。しかも、梱包の仕方は物によって大きさ形が違うのに素早い。応用力があるようだ。大物が終わると次に段ボール箱の移送へといく。一人が2箱を持ち上げて運ぶのだが、重い本が入っている箱でも軽々と持ち上げる。そして小走りのような足運びで持って行く。私は恥ずかしながら、本の入った箱は1箱でもぎっくり腰になりそうだ。それを2箱だから恐れ入る。家内は私があまり感心するので、あの人達はプロですからと言う。それはそうだが休むことなく作業は続く。途中で缶コーヒーやらお茶のボトルやらを差し入れるが、休んで飲んでいるように見えない。一人一人がリーダーの指示がなくても、進行具合を見て黙々と次の作業へと向かう。作業員同士の私語はまったくない。二人一組の作業も息が合っている。若者がたまにリ—ダーに指示を仰ぐことがあるが簡潔な応答で、はい分りましたと言ってすぐ作業に移る。

 かくして休みなしの作業が4時間、屋内の荷物はすべてトラックに積み込まれた。リーダーは私と家内と一緒に部屋を見回ってこれでよろしければサインをと言って全作業は終了した。どんぴしゃり12時だった。リーダーに寒い中ご苦労様でしたと労うと、いや、寒い方がいいのです。暑いのがたまりませんとのこと。

 さて、一日経った3月16日、今度は福岡のマンションでの荷物の受け取り、搬入である。13時、約束通りサカイ引越メンバーの福岡の若者たちが5人やってきた。リーダーは若いがしっかりしている。これまた、横浜組とまったく同じように作業をきびきび取り進めていく。やはり小走りで物を運ぶ。若いリーダーは、あるとき若者二人に私語はいけないとびしっと言ってきかせていた。搬出よりも搬入の方が作業は易しい。梱包をするより解体の方が易しいからである。15時前に終わってしまった。2時間足らずであった。働きぶりには、これまた感心することしきりであった。
 50年前のことだが、私は、製造現場の従業員の採用に九州中を駆け回った時期があった。以前の私なら、サカイ引越センターのリーダーは現場の係長に、若者たちも一も二もなくスカウトしたのではないかと思う。サカイ引越センターは、引越し業務では取扱量が日本一だという。日本一の理由が分ったような気がした。リーダーの養成や社員教育にも力を入れているのではないかと想像される。ただし、引越しの業界も激しい競争だそうだ。若者たちが果たして仕事の中身に相応しい賃金を得ているのかどうか、ここはたいへん気掛りである。
 私と家内は、引越しなどもうこりごりであるが、 さわやかな気分を味わって得るところも大であった。

(平成28年3月22日)

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