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エッセイ・コラム

ブラブラてくてく東京マラソン(その四、日比谷~浅草)

池田 隆

 第三日目は日比谷交差点より浅草雷門までの江戸下町コースである。交番のお巡りさんと雑談後、歩き始める。数寄屋橋では昔懐かしい日劇ミュージックホールや「君の名は」の映画シーンを思い起す。
 銀座四丁目角のライオン・ビアホールは無くなったが、和光や三越、三愛のビルは未だ健気に頑張っている。カタカナ名の店が増えた中で伊東屋や明治屋の名前を見るとホッとする。銀座通りには人を浮き浮きした気分にする魔力がある。
 日本橋交差点を右折し永代通りへ。兜町の証券取引所に入り、モダンに改装されたガラス張りの内部を見学する。取引中の時間だが人影もない。一句をひねる。
  目に見えぬお金が泳ぐ金魚鉢
 人形町の甘酒横丁を通る。京粕漬の魚久、親子丼の玉ひで、すき焼きの今半など老舗の飲食店がずらりと並ぶ。名物の人形焼を立ち食い。浜町の明治座は新派劇の艶やかな幟を春風に靡かせる。
 清州通りを進み、日本最大の現金問屋街、馬喰町・横山町へ。女性用衣料で溢れ返っている。「小売り致しません」の表示もお構いなし、一般の婦人方が目の色を変えている。
 浅草見附跡の碑を見て神田川に架る浅草橋に差し掛ると、屋形舟が何艘も係留されている。お隣の小さな柳橋の欄干に刻まれた簪のレリーフだけが粋な色町だった付近の記録を留める。
 吉徳や久月、秀月といった大きな雛人形店や雑多な商品を並べた小さな玩具店などが軒を連ねる江戸通りを進む。一筋入ると江戸時代に勧進大相撲が催された蔵前神社がある。
 丁度お昼になった。道沿いの江戸情緒満点の料理店「駒形どぜう」の暖簾をくぐる。酒に酔わせた泥鰌を煮込み、たっぷりの刻み葱をのせた鍋は二百年前にタイムスリップさせてくれた。
 一献の酒も入り元気づき、浅草雷門に到着。学生アルバイトらしい半纏姿で鉢巻き頭の車夫の誘いを断り、向いの観光センターの展望台に上ると、頭上に銀色のスカイツリーが青空に輝いている。

(第三日、一万一千歩、食事・見学時間を除き二時間)

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