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エッセイ・コラム

山ウドとミョウガタケ、そして青海苔のコンニャク
——旬菜の饗宴——

浜田 道雄

 五月も末のこのごろになると、初夏が来たなと思わせる食材が多く出る。旬の野菜を求めて、農協巡りをするのが楽しくなる季節である。
 海からの爽やかな初夏の風に誘われて、このところ行っていなかった伊豆韮山の農協の直売所をのぞいてみた。いろいろな食欲をそそる野菜が並ぶなか、やはり思った通り新鮮な山ウドとミョウガタケがあった。

 山ウドは十分な陽光の下で育ったらしく色が濃く、茎も鮮やかな薄い紅色をしていて、いかにもアクが強そうだ。初夏の香りをふんだんに蓄えているにちがいない。
「また、酢味噌和えにするかな? いや、トウガラシをたっぷり入れたキンピラがいいかな?」などと考えながら、すぐに山ウドをカゴに放り込んだ。

 ミョウガタケはミョウガの地上に伸びた若い茎のことをいい*、その柔らかい部分を賞味する。シャキシャキした食感と鼻に抜けるミョウガの爽やかな香りを楽しむのだ。
 先日訪ねてきた富士宮の友人が、自宅の庭で採ってきたといってもってきてくれたものをそのまま白味噌をつけてかじったが、これぞ夏の到来を知らせる野菜と、そのひとときを楽しんだ。
 あの楽しみをもう一度味わおうと、これもカゴに放り込む。

 韮山の農協ではもうひとつ、いつも買うものがある。青海苔を練り込んだ農家特製のコンニャクだ。他に、ユズを練り込んだもの、黒ゴマを入れたものなどがあるが、青海苔のコンニャクが一番うまい。
 このコンニャクを冷蔵庫で冷やしたあと、ヒラメの薄造りよろしく削ぎ切りにして皿に盛り、わさび醤油で賞味する。やや腰がつよい、弾力のある田舎コンニャクなのだが、ひと噛みしたとたん、口いっぱいに青海苔の香りが拡がる。これが私のいちばんの好物なのだ。

 気に入った旬の野菜が手に入ったからには急いで帰宅し、すぐに料理にとりかからねばならない。
 山ウドはやはりキンピラにすることにした。でも、いつものように丁寧にアクを取らず、軽く酢水で洗っただけで、ニンニクとトウガラシ、オリーヴオイルとゴマ油で炒める。ウドのアクを楽しむためだ。
 できあがったキンピラは、はじめは苦みが強く失敗したかなと思ったが、しばらくおいておいたらアクが油に馴染んで、いい旨味が出てきた。
 ミョウガタケは5、6本を細かく刻んで、味噌汁に放り込んだ。そして残りは先のように白味噌と合わせて食う。味噌汁から立ちのぼるミョウガの香味が初夏の宵の清々しさをフォルテシモで奏でる。

 これらの料理に青海苔コンニャクの刺身が加わって、この日のわが食卓は豪華な初夏の饗宴となった。どれも酒の肴にいいものばかりだ。酒の進むこと間違いない。キンキンに冷やした酒がことのほか美味い。

 あっという間にすべての皿はカラになり、饗宴は終わった。満足。満足。
 そして、思った。

「うまいものを食うには、自分で食材を見つけてきて、自分で料理するっきゃないな」

* スーパーマーケットで見られるような丸みを帯びた飛行船型のものはミョウガのツボミで、ミョウガタケと区別するときにはハナミョウガと呼ばれたりする。

(2016・05・26)

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