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エッセイ・コラム

異国から来た孫娘たち ~隠居の呟き

西川 武彦

 暫く前、我が家の一階を少しだけ改造して、若い女性を対象にホームシェアを始めることを綴った。サイズや模様が異なる個室が四つあり、共用のリビング、DK、トイレと浴室、玄関などがある。猫の額の庭も付いている。大家のご隠居夫妻は外階段で上がる二階に住む。
 シェアルーム専門の「ひつじ不動産」に取材してもらい、所定の謝礼を払って同社のサイトに『ホームシェア・シモキタ』として載せたのが6月1日。同社は物件を紹介するのみで、賃貸契約にはノータッチだ。同社のサイトで気に入った物件を見つけると、テナント候補は、同社経由、物件の運営責任者(本来の不動産業者、筆者の場合はそれに代わるNPO)にメールで見学希望を申し込む仕組みだ。川に釣り糸を垂らして当たりを待つ心境だ。

 二週目に入って、糸が深く沈んだ。日本の美大をでたばかりの台湾女性だった。この商談は実らなかったが、ほぼ入れ違いで二回目の当たりが…。今度は一年間のワーキングホリデイで来日した二人組の台湾女性。前後して日本人女性からの当たりも一件あった。
 まずはワーキングホリデイ組が二部屋を借りることになり、ホームシェア業が走り出した。台北の大学を出て暫く働いていた二十代後半の聡明かつ素敵な孫娘たち。日本語と英語が出来る。我が家は一気に若いムードに包まれた。
 なぜ中国人や韓国人でなく台湾人なのか?
 同国では多くの学校で日本語を教えるそうだ。で、日本語の読み書きが出来るから、前掲の日本語の不動産サイトで我が家を見つけたらしい。次の一手としては英語のサイトでマーケテイングの幅を拡げるのが得策かもしれない。こんなことを綴っていると、またしても釣竿に当たりがきた。今度は国産のお魚らしい。ご隠居もそわそわと腰が落ち着かない。

 首都圏の空き家の活用、一人住まい、或いは老夫妻だけになった一軒家の空き室の活用等々、超高齢者社会に入ったジャパンでは、ホームステイ、シェアハウス、ホームシェアのような形態で、ストックを有効に、もっと普遍的に、活用することはできないだろうか。少しは年金の足しにもなるのだから……。
 成熟した日本で、絶対人口が減り始め、生産年齢人口も減りつつあるなか、右肩上がりの経済成長は望めないだろう。豊かな自然環境は勿論、全国で増える空き家の活用を含め、財産を活用しながら成熟社会に見合った福祉国家を目指すのがあるべき国策ではなかろうか。まやかしの議論で消費税増を延伸するなどもってのほかなのかもしれない。

 話は飛んでしまったが、当ペンクラブには、豊かな海外経験を持ち、一軒家に住む方々が沢山おられる。年々増えるワーキングホリデイで長期滞在する外国人に、ホームシェアで門戸を開放することをお奨めしたい、とマルドメ派を逃れた気分のご隠居は呟いている。

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