作品の閲覧

エッセイ・コラム

五輪餅すわりしままに食うは?

内田 満夫

 リオ・オリンピックの閉会式を見ていて、江戸時代の有名な落首を思い出した。
「織田がこね羽柴がつきし天下餅すわりしままに食うは徳川」
 今回の場面に引きあててみると次のようになる。
「猪(いの)がこね舛添つきし五輪餅すわりしままに食うは百合さま」
 今大会で日本は、目標をはるかに上回る史上最多の41個のメダルを獲得して、東京大会への展望を大きく膨らませた。いやがうえにも盛り上がる雰囲気のなか、就任まもない小池東京都知事があでやかな着物姿で登場し、リオ市のパエス市長から五輪旗をしっかりと引きつぐ。安倍首相も異例の登場で、セレモニーの演出に「花を添える」おまけまでついた。
 この最高の晴れ舞台に、本来は別の人物が立っているはずだった。特に猪瀬元知事は、東京への五輪招致について、かなり「こね、つく」ところまでとり運んだ人物だ。それだけに無念の思いでことのなりゆきを見守っていたことだろう。「すわりしままに食う」はずだった舛添前知事が政治資金の私的流用問題で失脚したため、その役回りが小池現知事に巡ってきた。百合さまはツイている。
 しかし「すわりしままに」と揶揄しては失礼だろう。彼女が機を見て果敢にリスクに挑戦して今の地位を手に入れたことは、誰もが知っている。運と巡りあわせ、思惑と計算の渦巻く政治の世界である。小池現知事とて、今後どんな難問に遭遇することになるか分からない。公式エンブレムは「組市松紋」で決着をみたが、新国立競技場の建設費や聖火台の問題は、その後どうなったのだろう。
 今回のことでは、わが国初の女性宰相誕生についてもあらためて意識させられた。これまでに何人かの名が取りざたされてきたが、都知事就任を足がかりに今のところ彼女が一歩リードしていることは間違いない。五輪閉会式での晴れ姿は、小池宰相への展望を強く印象づける象徴的なできごとに見えた。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧