法華経の世界 4.観世音菩薩(観音菩薩・観自在菩薩)及び諸菩薩信仰
すでに述べたように、法華経の二十八の章(品)のうち最後の六つの章は後から付加されたものといわれる。そこには観世音菩薩をはじめとする何人かの菩薩が登場する。またごく簡単にではあるが、阿弥陀如来の極楽浄土についても言及している。これらは法華経の中心思想とは関係が薄い記述であるが、信者のあいだで広がる諸仏、諸菩薩の信仰を法華経信仰の中へ取り込んで統一しようとする意図があったと考えられている。(諸仏、初菩薩信仰については「仏教学習ノート22」を参照)
なかでも、観世音菩薩については中国、日本では「観音経」として独立した経典として扱われ、観音信仰が広く流行した。
【法華経・観世音菩薩普門品(観音経)】
無尽意という菩薩が、ブッダに対して「観世音菩薩は、何故観世音と名付けられたのか」と質問するところから始まる。ブッダは次のように答える。
「この世においては、幾多の生きとし生けるものが苦悩を抱えるが、その時、南無観世音と観世音菩薩の名前をとなえるならば、観世音菩薩はその声を観じてやってきて苦悩から救済してくれる。 だから観世音と言われるのだ。」
具体的な観世音菩薩の功徳、威力は次のように列挙される。
・大火に入っても焼かれない ・大水に流されても助かる ・大海で暴風に襲われ悪鬼の島に打ち上げられても逃れうる ・剣やその他の武器で殺されそうになっても逃れうる
・どんな悪鬼や夜叉に襲われても逃れうる ・手かせ、足かせ、首かせなどをかけられても逃れうる ・盗賊に襲われても逃れうる ・愛欲、怒りの感情、迷妄から離れることができる ・子宝に恵まれる などである。
観世音菩薩は、もちろん仏の身を現わして人びとを救済する場合もあるが、相手に応じていろいろな姿を示すとされる。いわゆる三十三身を現わすのである。このことを受けて菩薩像の彫刻ではさまざまの種類の観音像が生まれた。十一面観音、千手観音、馬頭観音、不空羂索観音、如意輪観音などがよく知られている。ちなみに観音菩薩像は、女性の姿も多く見られるが、もともとインドでは男性だったが中国で女性化したと言われる。
また別の経典である華厳経では、観世音菩薩の住む楽土はインド南端の小島、補陀落(ふだらく)とされ、日本ではそこへの渡海入口が熊野の那智とされる。その他三十三か所の霊場巡礼信仰も観音信仰から生まれたものである。
(仏教学習ノート33)