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エッセイ・コラム

高齢者の運転事故雑感 ~隠居の呟き

西川 武彦

 高齢者の運転事故が連日報じられている。最新のニュースは、医療センターの敷地内で起きた悲劇。後期高齢者の女性が、精算ゲートを出る際、アクセルとブレーキを踏み間違えて暴走し、男女二人が跳ねられて死亡したと伝えていた。
 駐車場の料金精算所では、運転席の窓を開け、名刺より小さなサイズの駐車券を、手を伸ばしてそれ用の薄い穴に入れ、表示された料金を別の穴に放り込む仕組みが多い。
 平均より手が長い筆者でも、車をぎりぎりに精算機へ寄せないと、すんなりと用を足せない。千円札が上手く入らず風で飛ぶ、入れようとしたコインをポトリと落とす…、そうこうするうちに後ろに数台の車が並び、冷たい目を感じて益々焦る。なんとか終わるとあわてて発車する。
 前述の事故は、普段はペーパードライバーの高齢女性が、入院中の夫を見舞いにきた帰りに起きたというから悲しいではないか。少子高齢化が進むなか、足の悪い連れ合いを医療・介護施設等に車で送迎しなければならないケースは益々増えるに違いない。それに伴う交通事故もしかり。

 高齢者の運転といえば、間もなく傘寿を迎える筆者は、二十五年前から、八ヶ岳のログハウスと世田谷の本宅を車で往復している。平均して月二回、高井戸ICから小淵沢ICまで150㎞余りを中央道で走る。高速道路へのアプローチを含めると、渋滞がなくても二時間半はドライブするから心身疲れる。家事は女房、ドライブは亭主と決めていたものの、数年前からは、ご隠居は家事を手伝い、運転は半々で交替するのが暗黙の決まりとなった。
 別荘仲間に聞くと、我が家と同じ要領で二人が運転する夫婦、あるいは、中央道は高速バスを利用して、小淵沢ICを下りたところにある無料駐車場に小型車を置いておき、そこから別荘までの往復や別荘村での活動にはそれを使う人たち、あるいは、都内から別荘村がある富士見町駅まで電車を利用し、そこからは管理会社が提供する「お買い物バス」やタクシーで別荘まで往復する人など様々である。新別荘事情と言えるかもしれない。近い将来には、自動運転車が主役になるだろう。
 東京五輪がある2020年には、8割方自動運転の車が登場し、2020年代後半には人間様はノータッチの完全自動運転が可能になるという。そうなれば高齢者運転のよる事故もよほど減るに違いない。
 最後まで棲み分けるのが筆者の夢だが、「それまでもつだろうかと」と、年が明ければ傘寿を迎えるご隠居は呟いている。

 車の事故といえば、狭い道路を人と車が一緒に使うことも大きな起因の一つである。自転車もそれに加わるから怖い。その昔、海外の長期出張や勤務から帰国する度に、彼我の道路事情の違いに愕然としてものだ。小池百合子都知事が主唱する「無電柱化」は、交通事故を少しでも軽減する高齢者に優しい施策の一つでもあろう。側面から応援したいと、よくばりのご隠居は呟いている。

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