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エッセイ・コラム

梅一輪 また一輪の師走かな

浜田 道雄

 冬至も間近なある朝、「季節外れの暖かい日になる」という気象予報士のご託宣に誘われて、久しぶりに近くの来宮の梅園まで行ってみることにした。
 熱海は東京に比べると格段に暖かいから、花の開花も早い。だが、昨日散歩した糸川沿いの桜並木は蕾がまだ硬かった。やはり1月にならねば開花は無理だろうと思われた。
 例年梅よりも開花の早い熱海ザクラでさえこんなだから、来宮の梅園の梅も花はまだまだ先のことと思いながら、訪れたのである。

 ところが、梅園に着いてみると、なんと入口近くの八重寒梅の枝先に、花が一輪見えるではないか。びっくりもしたが、心も弾んだ。
 それで、他の梅も開花してはいないかと、確かめることにした。一本一本木の前に足を止め、その枝の先々までも確かめる。すると、ほかにも何本もの木がすでに一輪、二輪と花をつけているのが見つかった。
 梅園の一番奥にある足湯まで行ってみると、そこの熱海桜もが三つほどの花を咲かせているではないか。
「おい、おい、冬至もまだだというのに、もう咲いちまったんか!このところ暖かい日が続いたから、あんたら、浮かれて狂い咲きしちまったんだね」
 私はそんな戯れ口をたたきながらも、すっかり明るい気持ちになっていた。

 園内に移築・保存されている中山晋平の旧宅の周りを掃除しているボランテイアの老人を見つけたので、このウキウキした気分をお裾分けしたくなり、声をかけた。
「もう、梅も桜も、花をつけてるのがありますね。でも、いつもはこんなに早く咲きませんよね。やはり、今年は暖かいんですかね?」
 老人は思いがけない返事を返してきた。
「いや〜! たくさんのなかには狂ってるのもあるからね〜 たまにはそんなのもあるんですよ」
 一瞬とまどったが、私はすぐに立ち直って切り返した。
「そうか! 梅も桜も高齢化してるんですね。人間と同じで、ボケちまったやつもあるってわけですか」
 老人はあっさりとうなづいた。
「そう。そういうこと」
 やれやれ、梅や桜の世界にまで高齢化と認知症が広がってしまったか! 先ほどまでのウキウキしていた気分はすっかり冷めてしまった。

 梅園を出て帰る途中、あたたかな日差しのなか初川沿いをゆっくりと歩きながら、早咲きの梅で俳句をひねってみようかと思った。苦吟の末、できあがったのは、

“梅一輪 また一輪の師走かな”

 こりゃ、ダメだ。駄作だよ! 狂い咲きの花だから俳句になんかには、無理なのかもね。

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