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エッセイ・コラム

ご隠居のテニス観戦

西川 武彦

 真冬になり、週一のテニスも月二に減った今月は、全豪オープンテニスを楽しんでいる。
 リビングのソファに沈み、暖房を25℃近くまで上げて、夏のメルボルンにいる気分で観戦するのだ。お目当ては錦織圭だが、ジョコビッチ、マレー、その他男女のトッププレーヤーの試合がより取り見取りだ。吝嗇なご隠居だが、二か月に限り月2000円払えばよいと聴いてWOWWOWを契約した。日本の選手たちは勿論、シード・プレーヤーの試合が観られるから安いものだ。観覧席と違って、テレビがアングルを上手に変えて見せてくれる。
 時差が二時間というのが嬉しい。他のメジャー大会(全仏、ウインブルドン、全米)は、時差が大きすぎて、8時にベッドに入る傘寿のご隠居は、対応が難しいのだ。
 お目当ての錦織圭を初め、ジョコビッチ、マレー、あるいは好みの女子プレーヤーたちを自在に選んで観戦する。

 テニス選手といえば、全豪が開幕する直前、13日の朝刊は、往年の名選手・加茂公成さんの逝去を報じていた。宮城淳さんと組んで、1955年に全米ダブルスを制覇した名選手である。
 公成さんとは、ご縁があって、一度だけダブルスを遊んで貰った。今から二十年ほど前、筆者が還暦を迎えた頃と記憶している。舞台は、彼が経営を手伝っていた湯河原の温泉付きコート。筆者は、そこの会員だった会社のS先輩とペアを組み、彼の知人と加茂さんがペアを組んだ。6-2で負けたが、筆者より4歳年上の加茂さんの硬軟自在の技は見事で、相手を動かして空いたところに打ち込むダブルスの醍醐味を教えて貰った。四人がネットの前で並んで撮った写真は、筆者の小さな宝物である。
 加茂さんとは、筆者が香港駐在時代、ご接待で一晩お付き合いした懐かしい記憶もある。
 公成さんは、テニス界で有名な加茂一家の次男である。同じくデ杯選手だったお兄さんの礼仁さんは筆者の職場・JALに在籍していた。筆者が某ベテラン大会に出たとき、一回戦で当たった同氏に勝ったことがある。球を交わしたわけではなく、何らかの事情で彼が棄権して不戦勝になったのである。下手な筆者が相手と知り、寝過ごしたのかしれない。

 テニス・トーナメントでは予期せぬことがまま起きる。今度の全豪では、二回戦で優勝候補の一角にいたジョコビッチが敗退した。体力を消耗する真夏の大会だ。共に勝ち進めば準々決勝で、圭君と当る可能性が大のマレーだって、ひょっとするとそれまでに疲労と怪我で棄権なんてことが起こりうるのだ。
 この原稿がネットに載るのは、男女とも勝者が決まっている頃だろう。
 錦織圭が満面の笑顔で優勝カップを掲げ、見事に英語でインタビューに答えているのをライブで観られるかもしらない。……となれば、まさにWOWWOW様さまである。

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