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エッセイ・コラム

トランプ大統領の勝算

森田 晃司

 ドナルド・トランプ氏が45代の米国大統領に就任しました。就任式の模様は日本でも大々的に報道され、安倍首相の施政方針演説が隅に追いやられるほどでした。他国の大統領に過度の関心を持つのはいかがなものかとの疑念は抱きつつ、やはり、歴史の変わり目の大きな出来事と思え、私見を述べてみます。
 トランプ氏は選挙戦中から金融資本の支配、エスタブリッシュメントの支配を批判し、メディアの偏向をやり玉に挙げ、米国の国益、米国民の利益を最優先すると唱えてきました。
 エスタブリッシュメントの先兵であるメディアは一貫してトランプ批判を展開し、選挙後もなおトランプ非難を執拗に繰り返しています。あまつさえ、就任式に際しても、民主主義を標榜するなら選挙結果を受け入れ、未来に向かっての団結を強調すべきところを、逆に、分断を煽り、トランプ新大統領の支持率が異常に低い、就任反対のデモが多数あるなどと報じ、就任演説の内容を酷評しています。
 世界平和、民主主義、自由、平等、寛容など過去の就任式で尊重されてきた米国の理想について全く言及がなかった、と識者やメディアは批判するのです。しかし、新大統領は空虚な議論をする時代は終わったと言っています。同氏は意識的に歴代大統領が繰り返してきた美辞麗句を避けたものと思えます。
 今はやりのポリティカル・コレクトネスを排し、妥協的な表現を排して、新大統領は、エスタブリッシュメントの手から米国の支配権を米国国民の手に取り戻すと端的に宣言しました。富の集中、権力者の恣意、それによって引き起こされる社会悪、こうしたアメリカの大虐殺(American carnage)は今ここで終わる、とも述べました。
 しかし、1%の富裕層が世界の資産の半分以上を占めるとも言われ、エスタブリッシュメントの力は強大です。メディアも駆使してきます。選挙中からトランプ氏と激しく対立してきたニューヨークタイムズは、チームを結成してトランプ報道を徹底すると発表しています。トランプ氏周辺の些細な汚点も失点も残らず報道して、トランプ失脚を主導する構えです。大変な戦いになります。四年間、或いは二期八年間、トランプ氏は戦いぬけるのでしょうか? とてつもなく強大な相手に対して果たして勝算はあるのでしょうか?
 しかし、思えばトランプ氏は、一年前は泡沫候補に過ぎませんでした。ところが、共和党の指名を獲得し、大統領選に圧勝し,新大統領に就任しました。戦い抜くプランをお持ちなのかもしれません。仮に二期八年の任期を全うし、現在の姿勢を貫き通すとするならば,世界も米国も大きく変わることになります。
企業経営に国益の観念を取り戻し、格差はなくならないまでも是正される方向へ、
既存の秩序を壊滅させ混乱させ、国境を破壊し、口先で世界平和を唱える、こうした虚妄の政治から脱却し、健全なナショナリズムを背景とした各国協調の道へ、
偏向したメディア、虚飾の言論を排し、真に多様な社会へ、
トランプ大統領はこんな方向を目指すのでしょうか。

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