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エッセイ・コラム

日本再生戦略の強化策

山縣 正靖

 日本再生戦略はまことに先を読んだ、時宜をえた政策である。トランプ大統領が米国第一主義をかかげて強行し始め、これを受けて各国が自国第一主義で行動し始めれば、我が国も日本経済を強くする日本再生戦略が最重要の課題となるからである。
 日本再生戦略はアベノミクス三本の矢に続いて新三本の矢が放たれているが、それらに掲げられた目標をどうやって実現するか具体的な実行戦略の設定はこれからであろう。
 そこで今回 再生戦略の強化策を検討し、提言申し上げる次第である。再生戦略の策定にあたっては、企業の経営改善戦略で使われる手法、手順を援用した。
( 手順 1 )今の経済状態、経済政策が成り行きで続くとして、向こう2年にどのような経済が予測されるか。景気循環予測モデルによる成り行きの予測では、成長率が2017年以降 1.7%、1.0%、2019年名目GDP 524兆円と低く、目標の名目GDP2020年600兆円には届かないだろう。再生戦略の強化策が求められる所以である。また景気の重要な指標である需給比率(稼働率)が上昇せず、供給過剰に逆戻りしかねない弱い姿が示されている。
( 手順 2 )この問題点が発生した原因は何か。 いろいろ挙げられるが、最大の原因は企業の国内設備投資が増えないことである。従来の景気循環のパターンではこの局面では設備投資が増加したが、今回はパターンが変貌して設備投資が増加しない。設備投資が増加しないと、乗数効果が逆に働いて個人消費も増加しない。
( 手順 3 )設備投資が増えない原因は何か。これまたいろいろ挙げられるが
①アジア諸国の価格攻勢を受けて国内産業の価格競争力は落ちており、企業は国内投資を抑えて海外投資を優先している(海外シフト)。
②海外シフトで、国内では需要が減り供給過剰状態が発生して、設備投資は出てこない。
③中国が大供給過剰状態に陥り、安値攻勢を掛けてくるので、国内産業は投資出来ない。
④国内産業の生産品は世代交替しており、いまさら更新投資をする必要はない。
( 手順 4 )この状態が続くと 何が起きるか。
①この成長は満足すべき水準ではあるまい。600兆円の目標は達成できるか?
②供給過剰に逆戻りしかねない状態は、非常に弱い経済、不安定な衰退状態を示している。
③国内の設備投資が抑えられると、価格競争力の劣化、新製品開発力の劣化がますます進行するのではないか。今後は海外投資のリスクが大きくなるので、このような国内経済の空洞化は避けなければならない。
( 手順 5 )改善するために何をするべきか。(課題の設定)
①2020年GDP600兆円の目標を達成するには、まず個人消費、設備投資、財政支出などの需要項目別の目標をかかげ、項目別の達成政策を検討、設定する。また、それに伴い財政健全化がどのようになるかも予測する。
②このうち最大の課題は設備投資の強化である。設備投資が増えれば乗数効果で個人消費も増えるものだ。また我が国の経済力を強化する観点からは次の3点の強化策が必要である。
  ⅰ)価格競争力を奪回する設備投資、ソフト開発
  ⅱ)新製品開発力を強化する/新機能製品を開発する設備投資、ソフト開発
  ⅲ)国内に残って苦闘している中小企業、高齢化産業の生産性向上を助ける
           設備投資、ソフト開発
 これらの強化策は具体的にはどのような活動になるのか。業種別に、県別に、構想を募る必要がある。ジャーナリストの取材能力にも期待するものである。
( 手順 6 )課題を成功するためにはどうやって人を動かすか。
①先頭に立って旗を振るのは首相である。再生戦略の先人であるサッチャー夫人、レーガン大統領、日本では池田首相がどのように呼びかけたか、参考にしたい。
②成功した例では「危機感の共有」が決め手になっている。与党も野党も、経営者団体も労働組合団体も、ジャーナリストも、そして何よりも国民が共有できる危機感を練り上げ、浸透させたい。
③ここで一番大きいのは大企業の経営者をこの国家プロジェクトに向かって動かすことではないか。現状、大企業が国内設備投資を抑え気味である事情は先の(手順3)で明らかにされているが、それらを克服する国内設備投資、ソフト開発を実行して欲しい。
 どうやって大企業を動かすか。トランプ大統領はかのGMにツイッターで国内投資を呼びかけて成果を上げたが、背景には財政支出、国防支出は愛国心のある会社に限るという大統領の決意があるからではないか。我が国で通用するとは思えないが、これに似た大企業へのインセンティブとして、新・所得倍増論のアトキンソン氏はGPIFや日銀の株式購入は、この国家プロジェクトに賛同して生産性向上投資を行い時価総額を増やした会社に限る(一種の格付け制度)、という考えを提言されている。
④官学の参画も重要である。
ⅰ)かって日本の復興期には各省庁は復興計画の策定、実施に大きく寄与した。
  今回の再生戦略にどの省が真摯な参画をするか?
ⅱ)前記の強化策ⅰ)、ⅱ)、ⅲ)はいずれも高度の技術開発を要する。理化学研究所、生産技術研究所、大学工学部は新たに専門の学部を新設して、この国家プロジェクトに参画して欲しい。

なお、このエッセイの基になる論文は、本ホームページの表紙の右上にある「リンク集」をクリックし、次いで個人の方の「山縣経済研究所」をクリックすると閲覧できる。

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