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エッセイ・コラム

Something Small but a Good News

西川 武彦

 今から4年前、山荘がある長野県の富士見町で、大規模な太陽光発電事業計画が業界大手のR社から流された。八ヶ岳南麓の海抜1000~1400mに拡がる富士見高原の森を切り拓くという。規模は28haで、東京ドームの6倍の広さだ。
 近隣には別荘など民家が散在する。針葉樹・落葉樹などを纏う美しい景観環境が壊される上、下方の5つの区への水源が侵される可能性もあるという。同社はなにかと配慮するというが、町内では、環境保全の観点からいかがなものか、反対であるなどの声が挙がった。

 富士見高原には、200世帯余りが会員のSNACという親睦団体がある。
 スナックは〝Society for Nature and Culture″の略で、飲み屋ではない。日本語の名称は「富士見高原の自然と文化愛好会」。30年ほど前に誕生した別荘族が主体の親睦団体だが、目的は、「富士見高原の自然環境と、文化遺産、生活行事などを理解し、その保護並びに研究等を重ねつつ、会員相互の親睦と交流並びに快適な環境の保持を計り、地域の発展に寄与すること」と、会則に定めてある。それに基づき、一帯の鳥獣禁猟地区指定、看板・広告類を規制する景観条例の制定等にも関わってきた。
 筆者は、同会の代表を務めた時代には、町の中長期計画策定にも参画して発言し、その後も景観担当顧問として目を光らせている。
 日本海沿いを中心に立ち並び、何かと危険な原発に代わる貴重な電力源の一つとして、太陽光発電は積極的に進めたいものだが、高度成長時代に工場誘致のために拓いたまま眠っている土地、あるいは休耕地等を活用すればよい。八ヶ岳からの湧水の流れを切断するなど論外だし、それが観光資源でもある美林を伐採してまでやるのはいかがなものか……。
 太陽光発電の当件についても、環境保全・景観保護等の観点から、現代表のG氏と、この問題に詳しく、都会から高原に移住して活躍しているI氏たちと語らって、別荘地管理会社や町長に反対の意を伝える一方、地方紙にもアプローチするなど、表裏で動いた。

 SNACの声も少しは効いたのか、昨年になって、R社は、水利権を持つ下流域で住民説明会を開催、地元の同意がなければ建設はしないとして、町内の5つの区に賛否を諮問した結果、水源保護への懸念などから、4つの区が不同意を表明した。それを受けてR社は、年が明けて間もなく1月22日付で、関係各位宛に、「富士見町境における太陽光発電事業中止のお知らせ」と題する書簡を発出するに至った。まずは一件落着である。

 「反対したってどうせダメ…」と安易に忖度しないで、一歩踏み出す。今回の小さな一件落着は、〝Small Thing but a Good News″と、ご隠居はなぜか英語で呟いている。

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