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エッセイ・コラム

スイスとウィリアム・テルに学ぶ(1)

安藤 英千代

 子供時代、みんな 『憧れのヒーロー』 を持っています。
 私は小学校時代、ウィリアム・テルが大好きで、図書館の絵本を何回も読みました。 しかし最近、本屋にも図書館にも ウィリアム・テル の本が見当たらず不思議に思っていたところ、元スイス大使の国松孝次著『スイス探訪』 を読み、「成程、そういう事だったのか!」と合点がいきました。
 北朝鮮に拉致され40年以上放置された横田めぐみさん他100名以上の方々の悲惨、核・弾道ミサイル開発、中国の南・東シナ海支配など、邪悪な国々の脅威に晒される日本人が是非参考にしたい一冊です。この国松氏はオウム事件捜査中に自宅前で狙撃され、九死に一生を得た元警察庁長官です。

 日本でウィリアム・テルがもてはやされたのは、日本を占領した連合軍最高司令官マッカーサーが「日本は太平洋のスイスたれ!」と言った事に端を発します。スイスは永世中立国なので、日本の非武装中立論者が熱い視線が向けました。日本を武装放棄させ属国にしたかった米国の陰謀通りです。
 ところがスイスはガチガチの武装中立国、国民皆兵を国是とする国です。勉強するほどに「これは話が違う」となり、日本人の関心は観光に特化し、テルの本は絶版となり書店や図書館から姿を消しました。
 しかし北朝鮮の軍事脅威、中国の問答無用の覇権拡大は、非武装中立が幻想であることを教えてくれました。国際的な自立心も誇りも失った国は、諸外国から疎んじられ、つけ入られるしかない訳です

 日本人はスイスが大好きで年間100万人が訪れますが、その殆どは観光目的で、スイスの歴史や政治や国防に興味を示す人は殆どいません。国松氏が指摘するように、目標を失って混迷する私達日本人は、『スイスの直接民主制・連邦制、ナポレオンやヒットラーの侵略も跳返した国民性、安定した政治・社会の仕組み、特化した分野で強力な経済力と科学技術力』等々、今こそ本格的にスイスを勉強し学ぶ時ではないでしょうか。

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