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エッセイ・コラム

朝ドラ三昧 ~隠居のつぶやき

西川 武彦

 NHKの朝ドラ「ひよっこ」にはまっている。昭和30年代の初め、奥茨城の農村から出稼ぎで上京した父親が、過酷な労働のなかで記憶を失い行方不明となる。彼を探して、田舎から「金の卵」として集団就職、レストランで働くことになったみね子を巡る物語だ。
 昭和30年から40年代にかけての高度成長期の社会現象、ビートルズ、グループサウンズ、ミニスカートなども象徴的に織り込まれて、その頃、駆け出しサラリーマンだった筆者には実に懐かしい。主人公のみね子を演じるのは有村架純、24歳。少し前の朝ドラ「あまちゃん」にも出演し、2015年には日本アカデミーで主演女優賞を得て、紅白の司会にも抜擢された。ふっくらした顏が醸し出す喜怒哀楽としぐさが可愛い。年恰好では孫だが、ご隠居はすっかり惚れ込んでしまった。
 まずは朝食を頬張りながら、朝7時半からBSプレミアムで15分、次いで昼食をむさぼりながら12時45分からNHK1番で、と二回観るのだから、我ながら呆れている。後者の場合、直前に12時半から45分まで、テレ朝では、倉本聰の脚本で、今や超高齢者になった往年の名優だちが競演する「やすらぎの郷」がある。それを堪能してから、すばやくチャネルを切り替えるのだから忙しい。
 みね子が働く赤坂界隈の洋食屋「すずふり亭」や、隣接するアパート「あかね荘」の皆さんも個性豊かで楽しい。「あまちゃん」についで、この朝ドラでも、ご贔屓の宮本信子が共演しているのも嬉しい。

 数日前のこと、朝ドラで感激したあとで開いた朝刊では、「おひとりさま」市場、と題する特集が載っていた。ネット・スマホ時代が極まり、若者も中年も、なかには高齢者も、四六時中これらを離せない。混んだ電車のなかでも、エレベーターやエスカレーターでも、人にお構いなく一人画面に耽っている。歩道を歩きながらもスマホと睨めっこしているから始末が悪い。二人並んで座った恋人同士が、スマホで語り合っているから、世も末である。自分の世界をもつというより、他の人を拒むような風潮なのである。
 「おひとりさま」市場が報じていたのは、あるラーメン屋が、何人もが座るテーブルやカウンターから、一人毎に衝立で仕切ったテーブルに替えたと報じていた。スマホに噛り付きながら、汁をすするのであろう。カラオケでも一人部屋が流行っているらしい。なぜか寂しく、侘しく、そして怖いではないか……。

 8月も終わりに近づき、ご隠居の恋人みね子主演の朝ドラは、あと一カ月ほどで終わる。
 Pon pon ponで始まる桑田佳祐のリズミカルな主題歌は、「夜は酒場でLonely あの娘(こ)今頃どうしてる?さなぎは今、蝶になって きっと誰かの腕の中」と味わいがあるが、その後半を、「……彼女は今 裸になってきっと誰かの腕の中」と茶化しながら、「寂しくなるなあ」とご隠居はつぶやいている。

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