「奥の細道」翁道中記(その十七 須賀川~五百川)
十八日目(平成二十九年五月三十日)
須賀川市街を抜け江持橋を渡り、阿武隈川右岸の「みちのく自転車道」を快調に歩む。日差しは強いが、適度な風が心地よい。
「奥の細道」の一節「左に会津根高く、右に岩城・相馬・三春の庄、常陸・下野の地をさかひて山つらなる」の遠景は今も変らない。農作業中の人に「どの山が磐梯山ですか」と訊ねると、朝早くは見えたが今は霞んでしまったとのこと。残念!
サイクリングロードに未練を覚えつつ川筋を離れ、芭蕉が立寄った田村神社へ。大まかな方角だけを定めて、幾つかの集落を抜けて行く。水郡線を渡り、暫く行くと社が眼前に突然現れる。お猪口を伏せたような小山の頂に社殿がある。急な参道の石段を登り参拝。山門に座り、出掛けに買ったコンビニ弁当を食う。
腹を満たし、小川沿いに数キロ先の阿武隈川との合流地点へ向け歩み出す。風が止み、湿度と気温が上がってくる。ペットボトルの水が底をつく。川沿いの郡山工業団地で飲料品の自動販売機を見つけやっと人心地つく。計画より早く郡山駅に到着。磐梯西線に乗り、磐梯熱海の温泉宿へ向う。
十九日目(平成二十九年五月三十一日)
今日は二本松まで行こうと勇んで郡山駅から歩き出す。だが風がなく蒸し暑いことこの上ない。今日の福島市は全国最高の三十二度を超す暑さになるとの天気予報通りである。
磐梯東線の陸橋を過ぎた先で阿武隈川から離れ、日和田に向う。ペットボトル二本に五百㏄の牛乳パックを飲んだが、まだ喉が渇く。旧街道沿いに進むと、芭蕉が「いずれの草を花かつみというぞ」と尋ね歩いた歌枕の安積(あさか)山に出る。
昼飯休憩と公園の四阿でカップ麺を食べ始めるが、S翁は暑さと疲れで喉を通らない様子である。木陰のベンチに横たわり休み始める。無理は禁物と最寄りの五百川駅まで歩き、今日は打上げる。列車とバスを乗り継ぎ、二本松経由で岳温泉の「光雲閣」ホテルへ向う。
(翌六月一日は天候不順の上に中通り地方に雷雨竜巻注意報が出たので、今回の歩き旅を中止し、車窓から麦秋を眺めながら普通列車を乗り継ぎ帰京)