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エッセイ・コラム

出光佐三氏に学ぶ生涯現役(その1)

安藤 英千代

 私達は、歴史を自分が生きてきた長さでしか実感できません。
 10歳の人には10年前は大昔であり、10年先は遥か遠い未来に思えます。しかし加齢と共にその物差しが長くなり、遠い過去と思っていた事が、実はすぐ身近に起きていたことを知ります。
 私は10歳の頃、太平洋戦争は、はるか遠い昔の出来事で、江戸時代や明治維新などの話とあまり区別が付きませんでした。しかし68歳になった今考えると、自分が誕生するわずか5年前に、広島・長崎に原爆が投下されて一瞬にして数十万人が死亡し、東京大空襲などで全国の都市が焼け野原になった歴史的大国難があった訳です。両親が話してくれた戦争の恐ろしさを、「またか」と聞き流していた愚かさを恥ずかしく思います。東日本大震災・大津波が一瞬にして2万人の命を奪い瓦礫の山と化した惨状が日本全土を覆っていた訳です。

 72年前、太平洋戦争敗戦で日本は焦土と化し約300万人が戦死しました。国民の殆どが家族を失い住む家を失って、その日をどうやって生き延びるかで四苦八苦していたとき、会社資産の全てを失いながら、海外からの引揚者800名を含む従業員1000人を一人も馘首せず仕事を探して生計が立つようにして、更には世界中をアッと言わせた「イラン石油輸入=日章丸事件」を見事成し遂げ、奇跡の日本経済復活の元を創り、「100年に1人出るか出ないかの大人物」と言われた経営者がいました。その名は「出光佐三」、終戦時60歳。普通なら隠居して悠々自適の第二の人生を開始する年齢です。

 今日本の平均的定年は60歳。豊かな現代でも、「年金破綻、年金満額支給開始の65歳まで再雇用で何とか凌ぐが、その先が特に不安」と自分の後半生をどうやって生きるか心配です。そういう初老期に、会社資産を全て失い1000人の生活を背負う事になった訳です。

 「海賊とよばれた男」(百田尚樹:著 講談社)は、「戦後建設は死ぬより苦しいものと覚悟せよ!」と檄を飛ばした出光佐三氏後半生を描いた驚愕の史実小説です。あらゆる組織で強いリーダー不在の現代、あらゆる階層の人に読んで欲しい本です。上下2巻の大著ですが、次々と襲い掛かる困難を中央突破する迫力と面白さに一気に読了する事ができます。

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