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エッセイ・コラム

年の瀬に

野瀬 隆平

 ゆず湯につかりながら、去りゆく一年を顧みる。
 今年の世相を象徴する漢字に選ばれたのは「北」であった。確かに、日本にとって北朝鮮の動向は最大の関心事であった。国際社会が一致して経済制裁を強めているが、それで問題が解決するのであろうか。生活に困窮した北朝鮮の人たちが、危険を冒して小さな漁船で漁に出て遭難し日本に流れ着く。残念ながら来年も北朝鮮が大きな問題であり続けるであろう。

 子供のころは大晦日、お正月が近付いてくるとわくわくしたものだ。しかし、今はそのような昂揚感はない。それでも世間の気ぜわしさは伝わってきて、自分も何かしなければならない気分になる。先ずは部屋の掃除に取り掛かる。机の周りに積み上げられた資料や不用になった小物を整理し、思い切りよく捨てることから始める。
 断捨離すべきなのは「物」だけではない。「何かすること」も俎上にあげなければならない。十数年前に長年の勤め人生活に終止符を打って時間的な「自由」を手に入れた。それまでしたくても叶わなかったことをやみくもにし始め、いつのまにか手を広げ過ぎたきらいがある。
 手元の日めくり、「一日一禅」にこんなの言葉がある。「何かひとつ捨ててみる」と題する文には、

何かを捨てて手放せば、その分だけ心と生活にゆとりが生まれ、そこに新しい変化の風が吹き込んでくる。

とある。要するに、何か一つを止めると、新しい道が開けると説いているのだ。
 今年、止めたことで思い当たるのは車の運転だ。運転免許証を自主返納したのである。さて、他に何を止めたらよかろうか。数ある趣味を見直すのも必要かもしれない。

 来年は80歳の節目の年を迎え、いよいよ人生の最終ラウンドに入る。年末に知人から貰った便りに、「健康で居ることが最大の社会貢献だ」と書いてあった。正にその通りであろう。
 来年はどんな年になるのか、否、するべきなのか、期待と迷いを抱えたままの身にも新しい年はやって来る。

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