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エッセイ・コラム

湖水地方で朝食にキッパーを食す

志村 良知

 20年前の英国ドライブ。蜂蜜色のコッツウォールズから北上し、湖水地方の入り口の町ウィンダミアに最初の宿をとった。
 翌朝、雨模様の中ワーズワース・ハウスを訪れた。館内には何人ものボランティアのご婦人がいて入場者を案内してくれる。水仙の群落の大きな写真パネルの前で「私はハイスクールでワーズワースの詩を習った」と言うと、ご婦人は「あらま……」という顔をした。そこで虹の詩の最初を暗唱してみせた。

My heart leaps up when I behold
A rainbow in the sky

 どうやら英語として聞き取れたらしく、非常に喜んでくれた。

 ワーズワースの旧居ダブコテージは、斜面を利用した広大な森の中にこじんまりとした白い家が一軒だけの心休まる場所だった。台所に小川を引き込んだ食料の保存庫がほほえましい。ここではロンドンからというご夫妻に会った。雨上がりの庭を散策しながら園内の草や木の説明とともに、ワーズワースが住んだ頃は、こんなに木が大きくなくて見晴らしが素晴らしかった、というような話をしてくれた。
 翌日はヒル・トップへ。この種の名所では「さあ、ピーターラビットの家だ。楽しいぞー」とテンションを上げておかないと往々にしてがっかり観光地になってしまうのであるが、一人旅の日本人の若い女性に会ったおかげで大いに盛り上がった。熱烈なピーターファンの彼女は、聖地に一人いて日本語で感激を表せる喜びからか、やたらハイテンションで、物語の本を片手に建物内や周辺のゆかりの場所、物、景色などの説明をしてくれるのだった。

 湖水地方最後の朝。先日のワーズワース巡りの後、ドライブしていてそのただずまいが気に入り、その場で予約して移っていたバターミア湖畔のホテル。
 前日、水切り遊びでバターミア湖にしこたま石を投げ込んだせいか重い肩をぐりぐりしながら朝食テーブルに着く。燻製ニシン、キッパーを頼んだら巨大な開きのソテーが大皿にバターを載せてごろんと出てきた。焼き魚にたじろいだりはしないが、これが朝食かよ、と一寸驚く。

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