作品の閲覧

エッセイ・コラム

「ユートピア」

野瀬 隆平

 テレビや新聞で、人工知能(AI)に関する報道がされない日がないといってよい。この分野での進歩が予想以上に速く、社会や経済に与える影響が現実の問題として無視できなくなってきたのだ。

 AIという頭を持ったロボットが、人間に代わって生活に必要な物やサービスを提供してくれる範囲が急速に広がると予想されている。日本では人口減少により物やサービスが充分に供給されず、経済が立ち行かなくなると危惧する人もいるが、今や人口減少を相殺してなお余りあるほどの能力をAI、ロボットが発揮して、むしろ職を奪われる人が出てくることの方が問題だと捉えられるようになってきた。
 何の摩擦もなく自動的に労働需給が調整されることはないが、うまく行けば各人に適度の仕事が配分される。更には、今までのように誰もが長時間働かなくてもよい理想的な時代が到来するかも知れない。

 人間は労働から解放され、あまり働かなくてよい状況となった時、それで満足できるだろうか。今からおよそ90年前に、100年後の時代を予見して、次の様な主旨のことを書き残している人物がいる。

「人間は労働から解放されても、何らかの仕事をしなければ満足できないだろう。残された職をできるかぎり多くの人が分け合えるように努力すべきだ。一日3時間働けば満足できるだろう……」

 生産性が向上することにより、従来のように長時間働かなくてもよい時代が来るだろうが、人間は働いていないと満足できない、という前提での主張である。
 これは1930年に、イギリスの経済学者、ケインズが、『孫たちの経済的可能性』という論文の中で書いていることである。100年後というと2030年である。今日のAIやロボットの進化を予見していたのでは勿論なかろうが、不思議と年が符合する。

 人間が少なくとも苦痛と感じる労働から解放されて、充実感が味わえる範囲内で楽しく働くだけで、世の中が廻って行く。そんなユートピアが実現する。
 2018年に見た初夢である。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧