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エッセイ・コラム

スカイ島 スコットランドの辺境

志村 良知

 ヨーロッパ駐在時代、車で行った場所でアルザスの家から一番遠いのは、寄り道しないでも2000キロ近くあるスコットランドのスカイ島だと思う。
 スコットランド本土からスカイ島のカイリーキンに懸る橋は有料である。「我が国には有料道路は無い」と断言する英国人もいる位で、高速道路も全線無料の英国で有料道路は珍しい。ゲートは当然右ハンドル対応のみで、料金は助手席の家内が払う。
 まだ午前中だったが、前日ホテル探しで遅くまでネス湖周辺をさまよう羽目になったのに懲りて、ポートリーの港から見える高台のホテルに二泊を予約した。これで落ち着いて観光できる。
 ポートリーの漁港では市が立っていて鱗が輝いて跳ねそうな魚が売られていた。山国アルザスからの魚食いとしては羨ましい限りであるが、ここで生魚を買い込むわけにもいかない。
 氷河が侵食したスカイ島の地形は非常に複雑で、さまざまな色のヒースに彩られた山々、一望に湾を見下ろす雄大な高台、スペイ川のようにピートで色づいた茶色い清流、潟の中のビュー・ポイントから眺める伝説の古城、など実に変化に富む。有名なスルガチャンの橋では猛烈な虫の襲来に悩まされた。自然が放置されている感もする。途中、教会の廃墟がいくつか目に入る。かってここに集った人々は何で生計を立ていてそれが何故破綻したのかを思う。

 島の最北端に女傑フローラ・マクドナルドの墓がある。
♪ My Bonnie lies over the ocean
♪ My Bonnie lies over the sea
 ビートルズも歌っているこの歌に残るマイ・ボニーことボニー・プリンス・チャーリー=スコットランド王子チャールスの、イングランド軍追手からの逃避行を助けた侠気ある女性で、この後も波乱万丈という言葉が色を失うような生涯を送った女性である。その時代は中世と思いきや、なんと18世紀も半ばというから驚く。

 島の南端から本土に戻るフェリー船内で、肩布を掛け房飾りを腰から垂らした華やかなキルト姿の数人を見かけた。ピンクの頬の10代とも思える若者たちだった。

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