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エッセイ・コラム

浜辺の友 2

大平 忠

 香椎浜の浜辺で知り合ったDさんとは、その後もお付き合いが続いている。88才ながら、毎日奥さんに成り代わって運動がてら買い物もされるとか。先日は、二人の住まいの中間点にあるイオンモールのスターバックスで会った。話をしているうちに二人の傾向がある分野で一致していることが分かってきた。
 Dさんは読書好きである。話の流れの中で今までどんな小説が面白かったかという話題になった。お互い、いま葉室麟を読んでいることは分かっていた。山本周五郎、司馬遼太郎、藤沢周平は別格として除くことにした。さあ誰のものが面白かったかと話が始まった。Dさんがまず、
「佐々木譲をご存知ですか、私はかなり読みましたよ、お気に入りです」と言われた。これには驚いた。私は身を乗り出した。
「佐々木譲が早い時期に書いた『鉄騎兵、跳んだ』を読んで、すごい新人が出たと思いました。次の作品を楽しみにしていたのに、なかなか出てこないのでヤキモキしました」
「10年くらい経って出ましたね、『ベルリン飛行指令』『エトロフ発緊急電』。面白かったです」
「『ストックホルムの密使』が三部作の最後でした。しばらくして賞を総なめにしましたね」
「あの三部作の第二次世界大戦物はともかく傑作でした」「同感です」
二人は顔を見合わせて笑った。
 次に私から
「逢坂剛のイベリアものは如何ですか」
「なになに、あの一連のものは10冊ぐらいありましたが、私は全部読みましたよ、あのシリーズは良かった」「私も好きでした」
今度も大いに驚き、声を出さず、ただ二人とも首を振ったり頷いたりした。
今まで、佐々木譲や逢坂剛の話を他人としたことはなく、聞けばDさんもこんな話は初めてしたとのこと。不思議なのは、たまたま出た作家の名前が、二人とも偶然一致し、しかもその作家の幾つかある分野の中の一つで一致したからである。Dさんと私は、脳の一部が同じにできているのではないかということになった。今日は、お互いびっくりしたから、本の話は余韻を残してここまでにしましょうとその日は別れた。すでにその日は話を始めて3時間が経っていた。
 数ある小説家の中で名前が一致し、さらにその小説家の限られたシリーズを二人は気に入っていたのである。私は自分と相似形の先輩の人に出会った思いがした。
 さて次回はどんな話になるのか大いに楽しみである。

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