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エッセイ・コラム

カラスとゼフィレッリ

平尾 富男

 オペラの演出・監督で著名なフランコ・ゼフィレッリが監督した映画作品に『永遠のマリア・カラス』(Callas Forever)がある。2003年初秋に日本で公開された。

 カラス役にはフランスのベテラン女優、ファニー・アルダンが抜擢された。ディーヴァ=カラスの魂がアルダンに乗り移ったような渾身の演技で、最初から最後まで観客を魅了させたと評判になった。
 全盛期の本物のカラスの歌声で、アルダン演じるカラスがオペラ映画製作に最後の歌手生命を賭けるという設定。実際のカラスの音源によるリップシンクの場面は、まさに本物のカラスを見るような迫真の演技であると新聞他の批評蘭に載る。
 同じギリシャ人の海運王オナシスとの恋をジャクリーヌ・ケネディーに奪われ、その美声も失って失意の底にあったマリア・カラスを、華麗に映像の中に甦らせるというユニークなこの映画は、彼女の晩年の伝記では決してない。ゼフィレッリ監督が亡き友カラスに捧げた魂の物語・オマージュともいえる作品なのだ。「歌に生き、恋に生きた」孤高の天才歌手カラスを甦らせることに成功させた。
 この監督は、イタリア映画の伝説的巨匠、ルキノ・ヴィスコンティのアシスタントを経てこの道に入った。オペラ演出の代表作には、METの『トスカ』『椿姫』、ミラノ・スカラ座の『アイーダ』他があり、カラスがプリマを務めた『椿姫』や『トスカ』等も手掛けている。
 この映画の中で劇中劇の形で挿入された『カルメン』は実に圧巻である。カラスとゼフィレッリは長年の間友人関係にあって、互いにそれぞれの才能を認め合ってきた。カラスが生前に歌っていたにも拘わらず、終にオペラの舞台では演技し残した『カルメン』を、カラスの歌声に合わせてアルダンに演じさせたのである。アルダンのリップシンクの演技を観て体が震えるようであったとは、ゼフィレッリの言葉だった。
 今、レーザー・ディスクに収められたこの作品を観て、ゼフィレッリの感動を追体験できる。


『マリア・カラスとフランコ・ゼフィレッリについて』は以下の注を参照:

 注(1):ウィキペディアによると「マリア・カラス(Maria Callas, 1923年12月2日 - 1977年9月16日)は、ギリシャ系アメリカ人のソプラノ歌手。ニューヨークで生まれパリで没し、20世紀最高のソプラノ歌手とまで言われた。特にルチア(ランメルモールのルチア)、ノルマ、ヴィオレッタ(椿姫)、トスカなどの歌唱は、技術もさることながら役の内面に深く踏み込んだ表現で際立っており、多くの聴衆を魅了すると共にその後の歌手にも強い影響を及ぼした」

 注(2):同じくウィクペディアでは「フランコ・ゼフィレッリはルキノ・ヴィスコンティのスタッフとして演劇界入りし、主に美術・装置を担当した。ヴィスコンティが映画に進出すると、その助監督も経験した。間もなく自らも映画監督を手掛けるようになった。古典劇をベースにした清爽な青春映画で知られる。1968年の『ロミオとジュリエット』では原作に忠実でオリビア・ハッセー、レナード・ホワイティングらティーンエイジの役者を主役に起用して世間を驚かせ、シェイクスピアの映画化としては最高のヒットを記録させた。1972年の『ブラザー・サン シスター・ムーン』は中世の修道士、聖フランチェスコの物語を題材に、信仰に目覚めた若い日々に焦点を絞ることで青春映画の快作に仕立て上げた。
 近年ではオペラ演出を活動の中心とし、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場、ロンドン・ロイヤル・オペラハウスなど、世界各地の主要歌劇場で演出を行い、とくに自国イタリア出身の作曲家ヴェルディやプッチーニなどの作品は知られている。読み替え演出全盛の現代ではオーソドックスな保守派に属するが、美術家出身らしい美しく豪華な舞台作りでファンが多い。また映画の題材にもマリア・カラスなど、オペラに関するものを選んだり、椿姫などオペラ映画も数多く手がけている」

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