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エッセイ・コラム

見返り美人とプーチン

三 春

 昭和中期に切手収集が流行っていた。東京オリンピック記念切手、皇太子殿下ご成婚記念切手、花や魚や名勝地などのシリーズもの。子供たちはお小遣いを投げうって必死で集めた。皮脂がつかないように専用のピンセットを用いて慎重に取り扱う。親兄弟が素手で触ろうものなら大喧嘩になったそうだ。我家でも膨大な量のストックブックが今も戸棚の一角を占領している。

 数年前のある日、いまや高値で捌ける上に戸棚もすっきりするだろう、これぞ一石二鳥と勇んで業者に持ち込んだ。ところが、かの有名な「見返り美人」(額面五円)ならば数万円にもなるが、戦後の切手は殆どが額面割れとのこと。
 それなら海外宛て荷物の送料を切手で払おうと、郵便局にどっさり持ち込んだ。そんな例はあまりないようで、局員が本局に問い合わせていたがもちろん有効である。だが五円や十円の切手で数千円分となると、数えるのも一苦労。次回からは台紙に張ってくるように言われた。但しこの方法は国際便に限られるらしい。

 世界で最初に切手を発行したのはイギリスだ。そのせいか未だにイギリス本国の切手には国名が表記されず、代わりに国王(エリザベスⅡ)の肖像が登場する。日本では明治天皇が大の写真嫌いだったためか天皇が切手に登場したことはない。
 ところで、どこの国でも政治家は自己宣伝がお好き。世界中を駆け巡る切手は格好の媒体だ。しかし政治家の功績は死後でないと定まらないから、生存中は用いないのが世界の郵政の基本的姿勢だ。それでもパキスタンなど例外はある。

 ロシアでも政府首脳の顔の切手は一切発行されない。だが昨年十二月にモスクワで開かれたプーチン展に現れたこの絵……、遂にプーチン切手が出るのだろうか。
 いやいや心配ご無用。プーチンは絶対にそんな馬鹿な真似はしない。どこの国でも郵便切手の裏には糊がついていて人々は裏に唾をつけるが、かの地で政府首脳の顔入り切手が出れば人々は切手の表に唾を吐くから。

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