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エッセイ・コラム

大河ドラマの主人公となる光秀

内田 満夫

 2020年のNHK大河ドラマが、明智光秀を主人公とする「麒麟がくる」に決定したようで、たいへん嬉しい。
 もう6年も前のことになるが、「亀岡光秀まつり」を覗いたことがある。光秀にはかねてよりシンパシーを感じていた。パワハラ上司に仕え、当初こそ重用されるもののやがて疎んじられるところなど、企業戦士時代のわが身と引きくらべて身につまされるところがあったのだ。5月連休の一日、ちょうど神戸から嵐山行の臨時直通電車が運行されていたので、出かけてみた。亀岡は嵐山・嵯峨野から遠くはない。
 新緑の嵐山界隈の散策、嵯峨野から保津川沿いを走るトロッコ列車からの峡谷美を楽しんだあと、亀岡城下に入る。街は年に1度のまつり一色で、豪華な武者行列が延々と続き、大勢の見物人も出て、大そうな盛り上がりを見せていた。馬上豊かな光秀公をはじめとする眷属の武将たちや、輿で進む正室熙子以下一族の女性たちの列は、なかなかの見応えだ。なかでも絢爛緋の内掛け姿の細川ガラシャの、妖艶な一瞥には完全に悩殺されてしまった。 光秀は一般には謀反人・逆臣のイメージだが、地元では名君としてその遺徳を讃える空気の強いことがわかる。
 冒頭に「嬉しい」と言ったのには、ちょっとした訳がある。光秀を主人公とする大河ドラマの実現に向けて、ちょうど署名運動を展開中だったので私も名を連ねてきたのだ。それがようやく実現する。私の一筆がきっと功を奏したに違いないと、独り合点して喜んでいるのである。報道によれば、「従来とはまったく異なる新しい解釈」のドラマ展開になるらしい。
 本能寺の変の真相については諸説あるが、どれも決め手に欠けるようだ。折しも光秀の子孫・明智憲三郎氏が最近、『信長公記』に依拠する新しい「真説」を提示して話題を呼んでいる。同書は織田信長の側近・太田牛一が残した史実の記録で、ユネスコの記憶遺産登録候補のひとつに挙げられたものだ。その筋書きに沿うとするなら、思いもかけない驚愕のストーリー展開になるのだが……。どんなドラマが繰り広げられるのか楽しみだ。

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