高齢者の現実
年金受給額は、従来は物価や賃金の上昇率と同等に支給される「スライド調整率」が適用されていた。しかし2004年に「マクロ経済スライド」制度が導入され、2015年に初めて発動されて年金の受取額が減った。スライド調整率の計算は複雑だが、大まかに言えば物価の上昇率よりも、0・9%減ぜられた支給額になる。かたや介護保険料は、2000年、月額2911円だったが、2015年は5514円、2020年は6771円、2025年には8165円を超えると試算されている。従って年金受給額は下がり続ける。
加齢とともに脳機能は誰でも低下する。認知症の有病率は年代的に見れば74歳までは10%以下だが、85歳以上で40%超になる調査結果がある。
自立生活の困難な老人なら、誰でも利用可能な「特別養護老人ホーム」がある。しかし2015年、「特養」の申込者は54万人、入居できない要介護高齢者は約26万人いる。家族等に頼らざるを得ない高齢者だ(家族等はとてつもない負担を強いられ貧困が始まる)。他の施設は、介護老人保健施設、養護老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、グループホームや、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)等がある。そして最後は無届け老人ホームだ。いずれにせよ「介護システム」を商品化し市場原理を導入してしまった。行き場のない低所得高齢者は「貧困ビジネス」を頼り、悪徳業者に食い物にされる被害は後を絶たない。
貧困にならざるを得ない社会の仕組みや、貧困層を食い物にする企業には目をつぶり、貧困を自己責任として切り捨てている政治がある。いずれにせよ福祉システムの民営移行依存は、国が国民を守る責任を放棄している。
高齢者の皆さん、あなたや配偶者が寝たきりや、先立たれたらどうしますか。老々介護ですか、息子や娘に頼むのですか、未婚の息子や娘に頼めますか。高齢者の最大の不安は、そのことではないでしょうか。
経済学者の宇沢弘文は、道路、住宅、港湾、空港、鉄道、上下水道、公園、文化施設、社会福祉施設、電気、ガス、病院など、生産活動や生活環境の基盤をなす社会的設備・施設を「社会的共通資本」と呼び、「社会(政府)が責任をもって整備するべきだ」と唱えている。