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エッセイ・コラム

オスプレイ悲話

松浦 俊博

 5年前に沖縄・普天間の米軍基地にオスプレイが配備された。オスプレイという名前はタカの一種の猛禽類からとったものだが、正面から見た顔は愛嬌たっぷりのムツゴロウに似ている。これが頻繁に事故を起こす問題児である。
 オスプレイはプロペラが空気を下方に吹き降ろすことにより浮き上がるヘリモード(離着陸時)と、固定翼に働く揚力により浮き上がる固定翼モード(飛行時)の2つの顔を持つ「きめら」だ。防衛省のHPなどによると24人乗りで、離陸時最大重量は27トン、機内積載最大重量は9トン。航続距離3,900km、最高速度は固定翼モードで毎時520km。エンジンは固定翼両端に1個ずつ取り付けられており、離陸時はほぼ垂直方向に向け、飛行時は水平方向に90°回転(ティルト)する。空中給油もできる。
 用途は、滑走路の無い場所で緊急事態が起きたときに、短時間で人や荷物を運ぶことである。緊急事態には、尖閣諸島への他国の侵入対応のような軍事行動もあるが、2013年のフィリッピン台風被害対応で人命救助に沖縄から出動した事例もある。ヘリモードの利点である垂直離着陸・空中停止に加えて、固定翼モードの利点である高速移動・長い航続距離を兼ね備えた輸送手段として開発された。

 ヘリモードと固定翼モードを両立させることは並大抵の技術ではない。それぞれの特性を多少犠牲にした妥協設計になり、これが事故の頻発につながっているように思える。1982年に初期設計仕様が決まり、1985年から開発設計が始まり、初飛行は1989年だった。2005年ころから実配備が始まったようだ。開発中から事故が多発して、30年ほど経った現在でもおさまらない。実配備になってからの大事故は、ほとんど離着陸時に起きていることから、前述の2つのモードの切り替えに問題があることは明らかだろう。

 離陸時にはヘリモードで上昇し、エンジンをティルトしながら加速していく。固定翼モードで自重を支える揚力を得るためには、速度を毎時200km以上に加速する必要がある。それまではティルトによりプロペラによる揚力が減少する分を、固定翼の揚力増加で補充する。90°ティルトするには、連続的に行えば11秒かかるそうだが、その間に十分な加速ができないと浮き上がっても降下することになる。さらにこの操作により機体の重心位置が前方に移動するため機首が下がるので姿勢を水平に保つ操作も必要になる。着陸時にも固定翼の揚力減少とプロペラの揚力増加のバランスをとり、機体の水平姿勢を保つ操縦を行うことになる。
 離着陸時のヘリモードでは、プロペラから吹き降ろす風を固定翼の上面で受けることになるので流れが著しく乱れる。乱れを低減するため、固定翼の後ろ側を大きなフラップ構造にして畳んでいるが、前側は構造的に畳めなかったようだ。

 飛行の安定性について、一般的には飛行機を二輪車に例えるとヘリは一輪車になる。突風などを受けて姿勢が変わっても、飛行機なら元の姿勢に戻そうとする力が働くが、ヘリにはそれをあまり期待できない。一方、操縦性は安定性と相反するもので、ヘリは操縦した通りに即時に姿勢を変えられるので、地面の起伏に沿って低空飛行できるが飛行機にはそれができない。ヘリと飛行機のそれぞれの優れた特性を同時に発揮するのは無理だ。
 オスプレイの離着陸時の飛行はヘリの不安定な特性を引き継いでいる。主な事故例としては、(1)低空での空中停止を繰り返した結果、プロペラからの吹き降ろしにより巻き上げた砂や埃により片方のエンジンを詰まらせてバランスを崩して墜落、(2)2機編隊で1番機のプロペラから発生した後流により2番機が片方のエンジンを失速させて墜落、(3)離陸時に(誤って)追い風方向に飛行し、十分に加速できないうちにエンジンの向きを水平方向にティルトしたため固定翼が失速して墜落などがある。纏めると、ヘリモードでの飛行不安定が抑えられなかったということだ。パイロットには一輪車に乗るような緊張が要求される。このような操縦を人間に任せるのは酷であり、AIを全面活用すべき分野だと思う。

 最近、オスプレイの構造を踏襲した民間機の開発が進んでいる。都市のビルの屋上から飛び立って500kmくらい離れた都市に着陸する約9人乗りの機種だそうだ。このような民間機の導入は、オスプレイの事故がおさまってからにしてほしい。

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