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エッセイ・コラム

人生楽ありゃ苦もあるさ ~隠居のつぶやき

西川 武彦

 テレビドラマ「水戸黄門」の大ファンである。西村晃がご隠居を演じるアレだといえば、同じ年代ではほとんどの方がご存知だろう。全国を行脚する黄門様一行が、各地で庶民を悩ます悪を知り、最後には切り合いでこれを征する物語。
 格さんが、「この紋所が眼に入らぬか!」と副将軍の紋所を見せると、一同「ははぁ」と平服するのが、なぜか痛快なのだ。
 勧善懲悪の筋書も良いが、人生を語る歌が素晴らしい。エンデイングでは、庶民の難儀を解いた一行が、次の目的地に旅立つのに合わせてお決まりの歌が流れる。
「♪ 人生楽ありゃ苦もあるさ 涙の後には虹も出る 歩いてゆくんだ しっかりと自分の道をふみしめて
 ♪ 人生勇気が必要だ くじけりゃ誰かが先に行く あとから来たのに追い越され泣くのがいやならさあ歩け」

 受験、就職、そして四十年にも及ぶ宮仕えを経た卒サラの野郎どもは、それぞれ、自分なりに、この歌詞に描かれたような苦楽を味わってきた。出世競争→自分ではどうしようもない運不運……、いわずもがなである。
 世間一般的に言えば、「卒業」して、子供たちも巣立てば、今度は親の介護があろう。それから解放されて、相続も終わり、ほっとすると、今度は自分の番だ。
 筆者の場合、卒サラ後の各種役職も終わった傘寿を過ぎる頃から、医者通いが急に増えてきた。酔って転倒すれば足の治療、小さな字がボケてきたので眼科でチェックすれば白内障だとか…、運動のあとは、マッサージが欠かせない。止らぬ抜け毛で寒くなった頭は、厚めの帽子で温める。並べれば切りがない。

 そんな流れのなかで、酸いも甘いもかみわけたご隠居を描くドラマにぴったりな歌詞とメロデイは、それとなくご隠居を癒してくれるのだ。
 このドラマには、もう一つ楽しみがある。由美かおる演じる女忍者・おぎんが、一仕事終えたあとお風呂を浴びる短いシーンがある。彼女が気持ちよさそうに湯に沈み、ふっくらとした白いもろ肌をちらりと見せるのだ。
 こちらが触れるわけもないからセクハラで訴えられるわけもあるまい。

 話が支離滅裂になってきたが、日産問題を含め、頭脳が緩んだ卒サラには本当のところがいささか分かり難い事件が多々起きる昨今、黄門様が裁いてくれたらと、平成のご隠居はつぶやいている。

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