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エッセイ・コラム

フライトの楽しみ方

松浦 俊博

 私にとって、飛行機に乗るいちばんの楽しみは、空を飛ぶということだ。鳥のように空を飛ぶのは、いくつになっても心躍る思いがする。主翼つけね後方の座席は、翼を広げたり閉じたりする様子がよく見える特等席である。飛行機の操縦についてはほとんど知識がないので、いつも新鮮な気分で乗る。座席のディスプレーに表示される飛行速度や高度の情報を見ていると、パイロットになったような気分になる。座席に着くと、時計とメモをとりだして、離陸や着陸と巡航の様子を記録する。国際線の場合について例を紹介しよう。

 離陸時には、主翼のうしろにあるフラップと前にあるスラットを広げる。ちょうど鳥が羽を広げて飛び立つのを真似たしくみである。スタートしてから離陸するまでに約40秒かかり、時速320kmくらいまで加速する。滑走距離を概算すると1,800mになる。国際線では機体は燃料をいっぱい積んでいるので重く、離陸に時間がかかる。離陸後すぐに脚をしまい、水平尾翼を操作して機首を上げていく。毎秒2~3度の割合で最大15度位まで上げるそうだ。離陸から約2分で高度900mに達したらフラップを閉じ始め、同時に機首を下げて徐々に水平に戻していく。2分位かけてフラップを完全に閉じるが、その際の時速は500km以下である。おそらくそれ以上の速度ではフラップを広げないのだろう。高度3,000mを超えると増速していき、離陸から20分あまりで最初の巡航高度10,500mに達して水平飛行に移行する。この時の速度は巡航速度の時速約900km(対空速度)である。

 水平飛行に移ってからは風との戦いが始まる。偏西風と一括りにして分かったような気がしていたがとんでもない怪物だ。確かに日本からヨーロッパを往復する際に、西に向う往きの所要時間は帰りより1時間あまり長い。平均的には西風になるのだが、場所によっては東風にもなるし、風速は毎時100kmを超える領域も広い。最近の飛行機では対地速度もディスプレーに表示されるが、向かい風だと時速800km以下になる場合もあるし、追い風だと時速1,050kmを超える場合もある。こんな気ままな風の中を時刻どおりに飛ぶのは神業かと感じる。だが、これが出来るのは、決して神業ではなく正確な気象データが得られることと、飛行高度と速度の調整が的確であるからだろう。また、燃料消費により機体重量が減るのに伴い揚力も減り、それに合わせて推力も減らす。このため、ステップアップと呼ばれる飛行高度上昇を2回くらい行う。

 着陸操作は着陸の20分くらい前から開始する。機首を下げて減速しながら降下していき、高度3,000mでは時速460km以下に下げる。場合によってはスポイラを使って高度を下げる。その後、機首を戻して減速し、高度1,500m、時速330km位でフラップを開き始める。フラップを開くと機首は元に戻し、6分ほどかけて時速220km位で着地する。着地から減速完了まで35秒位かかる。

 こういう記録をとるのは実に楽しいことだが、隣に座っている家内は全く興味を示さない。ディスプレーで映画などエンターテインメントを見て時間をつぶしている。人それぞれとはよく言ったものだ。将来、飛行機の翼がもっと鳥に近づいて、連続的かつ自在に形を変えることができるようになれば、楽しみは何倍にも増えるだろう。

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