作品の閲覧

エッセイ・コラム

IWCからの撤退

森田 晃司

 和歌山県太地町の伝統のイルカの追い込み漁や日本の鯨食文化を批判的に描いた「ザ・コ―ブ」という映画がアカデミー賞のドキュメンタリー賞を受賞し、世界的な反響を呼んだのが2009年でした。
 一方的な内容に疑問を抱いた八木景子さんが、数年かけて国内外の多数の捕鯨関係者やイルカの保護団体などにインタビュー取材した、ドキュメンタリー映画「ビハインド・ザ・コ―ブ]を発表されたのは2015年でした。この映画は、英国などでは高く評価されましたが、日本では、ハリウッドに忖度してか、殆ど紹介されないままです。
 ところで、日本政府は昨年の12月26日、IWCからの撤退と日本の領海及び排他的経済水域内での商業捕鯨を再開すると発表しました。
 IWC(国際捕鯨委員会)は、鯨の保護と秩序ある捕鯨産業の発展を願う十数カ国が中心となって1946年に設立されました。
 しかし、捕鯨と種の保存方法などを巡る意見の対立が深まると共に、票集めの為に、捕鯨とは縁もゆかりもない内陸国などの参加が急増し、現在は89カ国にまで膨張しています。近年の反捕鯨感情の高まりと共に科学的な議論ができずらい場となり、ノルウェー、カナダなどに続き、日本も脱退すべきか、その是非が問われていました。
 今回の脱退表明は、関係者にとっては長く苦しんだ上での結論だったと思われますが、この決断に対して、マスコミ、言論界では、国際協調を乱す短慮の決断は国益に沿わない、などと否定的な見解が多数を占めていました。
 ところが、NHKが1月に行った世論調査では、53%が撤退を支持したと報じられています。マスコミは相も変わらず教条的に国際協調の重要性を強調しますが、国民は一歩進んで、問題の中身によって協調の是非を判断するように進化しているようです。
 ハンチントンの「文明の衝突」の中でも、世界の八大文明の一つとして、日本は独立した文明を持つとみなされています。日本は、太古より四囲を海に囲まれた独自の歴史、文化、価値観を持つ国です。地政学的にも、また、文化の面においても孤立しがちです。先の敗戦の痛みもあって、戦後は、極端に孤立を恐れ、国際協調を重んじてきました。意見が合わなければひっこむ習性が身についてしまいました。
 しかし、グローバリズムが跋扈する時代には、遠慮ばかりでは生き残れません。根拠に基づく自己主張をし、時と場合によっては、国際機関から脱退する勇気も必要です。一部勢力が政治利用し、歪んだ活動の多い、ユネスコや国連人権理事会からの脱退も検討すべきでしょう。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧