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エッセイ・コラム

地上の風 (その1 ジェット気流と海流)

松浦 俊博

 飛行機のことを書いているうちに風に興味を持ち調べてみた。風をコントロールすることは出来ないだろうか。風は太陽からの熱エネルギーによる大気の対流と地球の自転によりおきる。風をコントロールできれば世界のエネルギー問題や災害対策に大変役立つし、軍事に利用すれば核爆弾より威力がある。誰もが考えることだが、いまだになにもできていないように思える。
 太陽に暖められる赤道では上昇気流が生じ、地表の圧力は低く対流圏の厚みは17km程度まで厚くなる。一方、太陽熱をあまり受けない北極や南極では下降気流が生じ、地表の圧力は高く対流圏の厚みは7km程度と薄くなる。対流圏の上部では、厚みが厚い方から薄い方に向けて、すなわち赤道側から極側へ斜面を下るように大気が流れる。地表ではその逆方向に流れが生じ大きな対流渦ができる。しかしこの渦は、地球の自転のせいで1つの大きな渦には収まらず、北半球と南半球それぞれ緯度方向に3つずつのセルに分割される。
 それぞれのセルの境界上部にジェット気流が生じ、中緯度(緯度30°から40°)では地球の自転方向に西から東に向かう。気流の中心部では風速は時速250km程度と速いので、飛行機がもしこの風に完全にのると飛行速度を3割くらい増加できることになる。
 このジェット気流は安定したものではなく、地面から発散する熱や海から蒸発する蒸気の影響を大きく受けて蛇行する。つまり全体としては西風なのだが、場所によっては南側から吹いたり、あるいは北側から吹いたりする。また、蛇行自体が地球の回転方向に旋回する。最近、北極の氷が急速に解けていることに伴い、赤道から極に向かう対流が弱まり、そのせいで蛇行がひどくなっているそうだ。ジェット気流は対流渦のセルの境界にあるので、それが蛇行するということは南の地域が寒くなったり北の地域が暑くなったりする、いわゆる異常気象をもたらす。

 風の生成についてもう一つ重要なことがある。地球表面積の七割を占める海面に大気が接しており、海と大気は相互に作用を及ぼしあう。従って風を考えるためには同時に海流も考えなければならない。

 海は大陸により5つの領域に分断される。海面から深さ150m程度の表層では、風と地球の自転により赤道付近の高温海水が高緯度方向へ、北極と南極の低温海水が低緯度方向へ、大きな循環流となって移動する。日本が面している北太平洋では、赤道の北のフィリピン海を時計回りに北上し、偏西風の方向に日本の太平洋側を東に進む暖流の黒潮になる。黒潮はアラスカ海流と合流して北米西海岸を南下する寒流のカリフォルニア海流になり赤道に向かう。
 暖流は極に近づくと風に冷やされてそのまま寒流になるとはかぎらない。一部は深層にある低温の塩分の多い水塊と、限られた水域で入れ代わる。不思議なことに表層と深層の水塊の間には明瞭な境界が存在する。深層水塊は1000年以上かけて海全域を南北に移動し、表面近くと深層の間を行き来するので、グローバルコンベアーベルトと呼ばれる。スコットランド民謡「ロッホロモンド」の「君は高い(生者の)道を行け。僕は低い(死者の)道を帰る」という切ない一節が連想される。
 北米西海岸を南下する寒流のカリフォルニア海流は赤道域に到達すると、南米コスタリカ沖付近から東風の貿易風により地球を半周西方向に直進して、フィリピン海に向かう。赤道上の温度の高い海面表層が西に運ばれ、フィリピン沖の海水温度を上昇させることになる。これが台風発生の一つの原因になるようだ。貿易風が弱い場合は、海水温度の高い領域が東側にシフトしてエルニーニョと呼ばれる異常気象をもたらす。
 そもそも台風は不要なものだろうか。大きな被害の報に接する度に、台風の抑制は必要だと感じる。続編に台風について書いてみる。

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