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エッセイ・コラム

トゥルーディおばあちゃん

松浦 俊博

 1930年生まれで88歳のトゥルーディは、息子の妻の祖母である。オランダ中部のハーメレン村の生まれで、村の名前が苗字になっている。現在はカナダのバンクーバー近郊に住み、家にはハーメレン村の教会の絵が飾ってある。故郷を懐かしく思い出すのだろう。
 「私の誕生日は6月6日でDデーと同じなの。Dデーの頃は14才で、家の前をナチスドイツの兵隊たちが歩いていたので、外に出られなかった」と言う。1950年代のオランダでは生活が苦しく、カナダに移住を決めたハンスと結婚して、カナダに向かう船に乗り込んだ。船では男女の部屋は別で、ハンスに会えないまま、ひどい船酔いの長旅を強いられたそうだ。オランダ語しか話せなかった彼らの苦労は想像に難くない。

 6年前に初めて会った時にも「私の英語はおかしいかもしれない」と気にしていた。でもクリスマスカードの文字は美しい。文字を芸術とみなす日本人の私は、その美しさは素養の高さを示すものと思う。 編み物が上手で、手編みの小物をいくつもくれた。キッチンクロスはパステルカラーの配色が柔らかい。マフラーもかさばらず、温かくて着心地がとてもよい。
 80歳の誕生祝いにもらったコンパクトカメラで雲や家の周りの花など、はっとする写真を多く撮っている。風景をバランス良く切り取る才能はなかなかのものだ。行く度に何枚かもらうので傑作写真集が分厚くなる。
 ブラックベリー摘みも得意だ。家のそばを流れる川沿いにブラックベリーが群生しており、夏にはバラのように棘のある枝一杯に実が生る。枝をかき分け実を摘んでボウルにいれる。私たちが小さなボウルをようやく一杯にする頃には、彼女は大きなボウルを一杯にして、川辺のローズヒップの実を摘んでいる。

 ハンスは10年以上前に亡くなりトゥルーディは一人暮らしだが、近所の友達とお茶会などで楽しい時間を過ごしている。曾孫が20人を超え、誕生日などには大勢に囲まれる。若い頃の苦労のご褒美だろう。私の好きなおばあちゃんだ。

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