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エッセイ・コラム

ローカル線普通列車の旅① ~「阿房列車」~

斉藤 征雄

 毎日が日曜日の身なので夏休みも何もないのだが、OBペンクラブの活動が夏休みということになると、我が予定表もがら空き状態になって暇を持て余す。あげく、カミさんのため息まで聞こえてきそうな気分になる。
 それを回避すべく八月、ローカル線普通列車の旅を思い立った。特に目的を定めず、ちびちびと酒を飲みながら三日程なるべくローカルな普通列車を乗り継ぎ、夜はひなびた街で田舎料理に地酒でも飲んでいい気分になる。内田百閒の『阿房列車』にヒントを得た気まま旅である。
 思い立ったら、こんな贅沢な旅をするのも、今を逃すとこの先一生できないだろうという気持にもなってきた。

 一人旅では間が持たないからだれかを誘いたいが、旅好きなことはもちろん、酒好きでなければ困る。手近なところで条件に合いそうなS氏に声をかけたら、早速二つ返事で乗ってきた。持つべきは友である。特に酒のことでは波長が合う。
 S氏に三人目の人選を相談する。浮上したのがM女史。女性の華やかさが加わるし、酒好きという点でも申し分がない。メールすると、これも時間を置かず「いいですねぇ 参加します」の返事。
 酒を愛する者は、酒が飲めると聞けばそれだけでもう気持ちが動いて、判断が大雑把で前のめりになるようだ。
 斯くいう私も、こよなく酒を愛することはいわずもがな。

 車中で酒を飲むのだから、人数は四人が最適である。そこで、鉄道の旅だから鉄道マニアにも登場いただきましょうということで、自宅の庭に線路を敷き詰めているという噂の鉄オタ、N氏を誘うことになった。
 深夜にN氏から返信が届いた。「八月の普通列車の旅と聞くと、つい青春18きっぷを思い浮かべてしまいます」と、すでにやる気満々。そして「午前中から車内で呑んでいる予感がしてきました」とのことで、予想以上の呑み鉄さんでもある。

 八月某日、平均年齢七十歳を超える四人組は、おのおの青春18きっぷに思いを託して新宿駅へ集結した。
 本稿は、その意味のない旅の模様を、意味もなく記録したものである。

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