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エッセイ・コラム

ローカル線普通列車の旅③ ~八高線・上越線~

斉藤 征雄

 八高線は、八王子から埼玉県の高麗川を通り群馬県の高崎を結ぶローカル線である。しかし実際の運行をみると、八王子からの電車はすべて高麗川駅で川越線へ入るから、未電化でディーゼル車が走る高麗川―高崎とは別の線の趣である。
 八王子を出てしばらくは、昭島市、福生市など東京の近郊ベッドタウンを走るのでいわゆる通勤電車と変わらない。そういえばこの辺には米軍横田基地があるはずだが、車窓からは皆目見当がつかなかった。やがて埼玉県に入り飯能あたりからようやく乗客も少なくなり、八王子を出て50分程で高麗川に到着した。あいにくポツポツ雨が降りだした。

 高麗川には高麗神社がある。七世紀に朝鮮半島で滅んだ高句麗から二千人ほどの高麗人が亡命、大和朝廷はこの辺りに移住させ高麗郡と称したが、その首長(高麗王若光)を祀っているという。雨なのでタクシーで乗り付け参拝し、ちょっぴり古代史の匂いを嗅いだ。
 帰りは徒歩で駅に向かう。途中のコンビニで、車中で飲む酒を調達(ワイン1本、ワンカップ2本)。高崎までの間はこれで足りるだろう。高麗川駅のホームで列車を待つ間、M女史がごそごそコップを取り出した。さっき仕入れたワインをもう飲むらしい。皆もそれに倣って少し飲んだら列車が来たので乗り込んでボックス席に陣取った。ようやくローカル線の旅が始まった感じがした。
 古代史に詳しいS氏から「この辺には高麗以外にも朝鮮半島由来の土地名が多い」などの講釈を聞きながら、ワインを片手に窓外の景色を眺める。なかなかオツな気分である。

 しかし四人の話題はすぐに、高崎に着いたら何を食べるか、飲むかに移った。今日の午後は高崎から上越線で越後湯沢方面へ行くだけだが、上越線は水上から先へ行く普通列車の本数が極端に少ないので水上発17:49まで時間を潰す必要がある。時間の潰し方としては高崎の居酒屋あたりでじっくり飲むか、水上で利根川べりを散策するかの選択だった。まだ午前中だったこともあり適当な居酒屋の当てもなかったので、判断は後者に落ち着いた。
 高崎では、駅ビルの中の何でも食堂で、名産「上州もち豚つけ汁うどん」と、各自一合の燗酒を頼んだ。うどんは太麺と細麺があったがM女史とS氏が細麺、N氏と私は太麺にした。食べ終わってM女史が「太麺の方がよかったかしら」とつぶやいていたが後の祭りだ。

 水上に着いた時には雨が結構本降りだった。駅前の商店街は文字通りのシャッター街。観るものはと聞くと「道の駅」があるというのでタクシーで向かう。川魚の水族館が併設され利根川遊歩道にも降りられるミニパークだった。雨も少し小やみになったので、奥利根から流れ出る利根川を眺めながら時間の経つのを待った。昼飲んだ酒の酔いはすっかり醒めた。

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