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エッセイ・コラム

モクセイの香り

藤原 道夫

 10月に入るといつも東京近辺ではモクセイの香りがそこはかとなく漂う。秋になったことを実感する時だ。この木は育てやすいようで、人家の庭やマンションのちょっとしたスペースでよく見かける。近間の深大寺とそれに隣接する神代植物公園には大木があり、時季に訪ねては木の下で深呼吸しながら香りを楽しむ。

 モクセイとして見かけるのはキンモクセイが圧倒的に多い。これはあまり見かけないギンモクセイの変異種である。神代植物公園には、かなり大きなキンモクセイとギンモクセイの木が並んで植えられており、そばにウスギモクセイの大木もある。この三本の木は、ギン、ウスギ、キンの順に、それぞれ白っぽいクリーム色、薄い黄色、オレンジ色の小さな花を咲かせる。キンモクセイは多くの花を付け、香りも強い。キンモクセイの花を直に嗅ぐと、少し刺激的な香りを感じることがある。一方ギンモクセイとウスギモクセイとは気品ある香りを発し、花に近づいて嗅ぐと一層香りを楽しむことができる。

 三嶋大社(静岡県三島市)の神門を入った右手に樹齢1,200年といわれ、国天然記念物になっているモクセイの古木がある。大きく枝を広げていて、満開近くになると2㎞先まで香りが届くといわれる。この樹はウスギモクセイであることを最近知った。例年だと9月初旬と下旬とに二度花を咲かせる。一回しか咲かないこともあるようだ。大社のホームページで調べてみると、昨年は8月25日からと9月18日から4~5日咲いた、とあった。できれば今年訪ねてみたいと思い、8月末に社務所に問い合わせてみたところ、まだつぼみが固く、開花の予想がつかないとのこと。そうこうしているうちに訪ねる機会を失してしまった。10月半ばになって調べたところ、9月18日と10月13日に咲いたとあった。例年よりだいぶ遅い開花で、律義にも二度咲いたことが分かった。今年は東京でもキンモクセイの開花が遅れた。9月になっても暑い日が続いたせいだろう。10月も半ばになってようやく香りが漂い始めた。

 現在、地球の温暖化がさまざまな自然現象の変化に顕れていることは誰しも感じている。花は正直に変化を知らせてくれる。季節には季節の花を楽しみたい、また旬の果物や魚もそれぞれの時季に食べたい、こんなささやかな願いがだんだんと叶えられなくなっていくのだろうか?

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