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エッセイ・コラム

ローカル線普通列車の旅 ④ ~越後湯沢・塩沢~

斉藤 征雄

 水上から清水トンネルを抜けると越後である。鉄道マニアのN氏は、しきりにトンネルの中の地下駅に関心を寄せていたが、他の三人はさほど興味がない。
 一日目の宿「湯沢・玉城屋」(駅は越後中里)に着いたのは18:30頃だった。民宿旅館だが、田舎料理と地酒が目的の今回の旅にはふさわしいと思えた。女将さんも愛想がよく気さくそうである。泊り客も、われわれ以外には長期滞在のビジネスマンが一人だけのようだ。
 時間が遅いので風呂は後にして、早速夕食にしてもらう。何はともあれ、取り敢えずビ-ルで喉をうるおしながら地酒のメニューを見る。場所柄当然「八海山」があるが、こちらに親戚が多いM女史のお薦めは「鶴齢」。塩沢に酒蔵がある地酒中の地酒という。地元なので値段も手頃。早速「冷や」と「ぬる燗」を一本ずつ頼んで試すと、口当たりも良く旨い。
 料理も次々と出てくる。山菜料理の他に海鮮サラダ、豚テキなど多彩である。アケビの芽のおひたしがおいしかった。そのうち厚かましくも私が野沢菜漬けを所望すると今はシーズンではないという。代わりに小茄子の浅漬けがどっさり出てきたのはうれしかった。
 酒も進み、一人当たり4~5本飲んだところで飯にした。女将さんから自家製のイカの塩辛が差し入れされてまた感激。本場のコシヒカリのごはんには合いすぎる。
 斯くして旅の一日目は、幸せな気分で無事終わった。

 昨夜S氏が、小茄子の浅漬けを朝食にもお願いと言ったのが効いて、小茄子の浅漬けがちゃんと出ている。そして食べきれないほど豪華でおいしい朝食だった。
 女将さん運転の送迎車で越後湯沢へ向かう。そして湯沢から列車に乗って10分で塩沢に着いた。明け方かなり強く降っていた雨も、この頃にはすっかり上がっていた。
 塩沢はかつて越後と江戸を結ぶ三国街道の宿場。街道沿いに雁木を再現し雪国特有の街並みを復元した通りがあるというので駅からぶらぶら歩いて探す。10分程で交差点に出た。左右をみると雁木が街道の両側に作られた街並みがあった。まるで映画のセットを見るようである。しかも朝早いせいもあって人通りがなく、余計作られた街の印象が強かった。
 この街並みの名前を「牧之通り」という。そう、ここ塩沢は江戸時代に『北越雪譜』を書いた鈴木牧之の生まれ住んだところなのだ。(『北越雪譜』については、大月和彦氏が800字文学館で4回に亘って紹介されているのでそれを参照されたい)
「鈴木牧之記念館」は、牧之通りを少し入ったところにあった。雪国の生活を知る上でよく整理された記念館だが、中でも越後上布の製造過程を説明する映像は圧巻で四人は時間を忘れてこれに見入った。
 帰りに再度牧之通りに戻り、鶴齢酒造の直営店で「純米吟醸」と「吟醸生酒」を仕入れて次の旅程に備え、塩沢駅に向かった。

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