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エッセイ・コラム

文字を読む ~隠居のつぶやき

西川 武彦

 日課として、NHKの朝ドラを見ながらの食事が終わると、小一時間は朝刊を読む。退職前から愛読している東京新聞だ。一面に始まり、政治経済、国際、暮らし、スポーツ、連載物等々、全28頁である。広告・株相場等々があるから、実質的には割り引かなければなるまいが、四百字詰め原稿用紙で換算すれば、200頁の新書を一冊読む勘定になろうか。現役時代に仕事柄読んでいた日経だと400頁近くなるから凄い。

 次に文字を読むのは、昼寝後の30分ほど。これは図書館から借りた単行本や新書本を、ソファの長椅子で仰向けになってめくる。午後の日差しが温かい場所なので、ひろげた本を顔にかぶせて、知らぬ間に昼寝に入ることもままある。
 寝る前にはベッドで読む。既にアルコールが入っているから、軽いエッセイ物が多い。前掲の「新聞読書」と合わせれば、毎日二時間になるから、年齢・体力を考えればまずまずの読書量だろうか…。
 対して、週に何度か電車に乗ると、後期高齢者が前に立っているのはお構いなしに、若い皆さんは、スマホやらで、ゲームや漫画に耽っているのが大半である。新聞を小さく折りたたんで読んでいた乗客を見かけた現役時代が懐かしい。

 今月26日の如上の新聞では、『学校と新聞』と題するコラムで、PISA(国際学習到達度調査)の読解力で、日本が十五位に続落したと報じていた。調査については、日本の実態に則さない一面もあるようだが、スマホやテレビなどに浸る日本の子供たちの読解力は、危機的な状況にあるのは間違いないのだろう。で、同コラムでは、一日に三十分間、子供に本や新聞を読ませることを提案している。一日三十分は、365日では、小学校高学年や中学校一・二年の国語の総授業時間を軽く超えるという。

 振り返って、我が家はどうかといえば、海外生活が長かった長男夫妻は、家では新聞を購読していないという。パソコンやスマホで情報を得る習慣がしっかり身についているのだ。旦那の方は、早朝出勤して、会社で新聞をひろげたり、各紙のレジメに目を通すから、それで十分なのだろう。「じーじ」が心配なのは、孫息子二人だ。学校で新聞のレジメを読ませているとは思えない。そのことを怖れて、「ばーば」は、新聞の某コラムの切り抜きを定期便で送っているらしい。
  もっとも前掲の新聞では、『若者の声』と題して、中学生や高校生たちが、350字で意見を綴っていた。見出しだけご紹介すると、「五輪に浴衣でお客迎えたい」「歩道の自転車 歩行者が優先」「継続力生かし高校でも駅伝」「会って話せば世界は変わる」「高校の時間割『昼寝』ほしい」。新聞社で少しは添削したのだろうが、いずれも納得がいく発言だったから、彼らより七十年ほど長く生きている後期高齢者が憂える必要はないかもしれない。

 ……と、ここまで書いたところで、ご隠居が熱心に見ているテレビドラマ『やすらぎの刻』の時間が迫ってきた。今日のところは筆を折って、年代が近い男女の名優たちが演じる後期高齢者風景を楽しみ、それから午後の読書に移ることにしたい。(完)

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