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エッセイ・コラム

桂離宮を巡る (四)変わり石灯篭

藤原 道夫

 桂離宮の庭園のなかには、園林堂前の一対を除いて、大名屋敷の庭園でよくみかけるような笠が大きく背の高い石灯篭は見当たらない。ほとんどが小振りで基部が埋もれている。他所にはないような変わった石灯篭もある。そこに何らかの意図が込められているのだろう。灯っているところを見るのは叶わぬことだが、想像をはたらかせながら案内される順路にしたがって石灯篭を巡ってみよう。

 紅葉の馬場に入ってすぐ生垣の切れ目から左に入ると、竿が半分ほど埋められた背の低い織部灯篭が立っている。庭園を回遊する道の始まりを示しているかのよう。外腰掛へと導かれてそこに座ると、右手にくの字型の赤みがかった大きな石とその奥に遠州好みの二重枡形手水鉢がおかれ、かたわらに織部灯篭が立っているのがみえる。うす暗くても手洗いができるように据えられたか。外腰掛の前の「行の延段」を進むと先端に小振りの灯篭がみえる。突き当りであることを示しているようだ。
 飛石に導かれて左に進むと視界が急にひらけ、松琴亭の大きな茅葺き屋根が目にはいる。すぐに短い石橋、その手前に織部灯篭が立ち、下の小川に「鼓の滝」が流れる。道は池にそって進む。右手に平べったい黒い石を敷きつめた州浜がのびている。その先端にたつ可愛らしい岬灯篭が景色にアクセントをつけている。奥は天橋立とよばれる。さらに進むと、離宮内としては背の高い織部灯篭が立つ。その竿の下部に聖母マリア像が彫られていることから、キリシタン灯篭ともよばれる。謎めいた灯篭だ。傍らに一本の楓の木があり、秋には紅葉が楽しめたのだが、5、6年前に枯れてしまった。キリシタン灯篭が寂し気だ。
 松琴亭の横側、池の端を進んで蛍橋をわたると道は急に登りとなり、木のしげみで視界もわるくなる。登りきって左にまがったところに水蛍灯篭がある。説明がないと人々は目もくれずにさきに進む。この灯篭の火袋に小さな三角形が縦に二つ彫られている。暗くなって離れたところから灯りがみえると、二匹の蛍がとびかっているようだとか。
 梅の馬場の端に笠と火袋が六角で四脚の雪見灯篭が据えられている。高さ六十㎝ほど、同類としては秀逸の作といわれ、全体のバランスが実によい。御殿や書院から雪景色をみる時に灯りがともされたであろう。
 装飾に凝った笑意軒にいたる道の右手に笠も火袋も三角形で三脚の三角灯籠がある。建物の下の池辺には二か所に船着き場があり、端のほうに三光灯篭とよばれる笠と火袋のみの四角い小さな灯篭が置かれている。池の対岸からみると、一つの面に太陽と三日月を表す刻みがみてとれる。

 桂離宮庭園内の灯篭一つ一つに創意があり、庭のそれぞれの場にとけこんでいる。この離宮をつくった人々の遊び心を意識しながら灯篭をみてまわると、彼らの審美感に感服するばかり。

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