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エッセイ・コラム

シュレッダーが増えた

西川 武彦

 書類・本・雑誌・コレクション等々を終活の一環で処分すると、今年の正月に己に誓い、家族にも宣言した。六畳の書斎の話である。半世紀は使ってきた部屋は、足の踏み場がないほどで、入り口から机までたどり着くのに足がよろめくほどの状況なのだ。
 二十年前に終わったサラリーマン時代の資料、編集制作に深く関わった機内誌や諸団体の会報類、単行本・文庫本・全集・辞書・参考書、製本・出版したときの資料、書き溜めた原稿と素材、写真集、新旧のノートパソコン二台(ウインドー7と10)、プリンター、コレクションの銅版画、歌が趣味だから膨大な譜面や譜面台、マイク・CD・テープ・録音機器、客商売みたいな稼業だったサラリーマン時代の名刺・挨拶状・年賀状……、並べ始めたら、止まらなくなってきた。気が狂いそうだ。
 退職・相続など、人生の変わり目に入用だったが今や不要になったものは、その都度かなり廃棄してきたにもかかわらず、このありさまだから恐ろしい。
 コロナ騒ぎで諸団体の活動が停止され、自宅に閉塞されて、時間は有り余っているのに、整理して廃棄処分することができないのだ。

 別室にある家族の膨大な写真集は、どうやら年が明けてから連れ合いが整理処分したようだ。最後の儀式で飾る写真でも探していたのかもしれない。寿命は男性の方がかなり短いのだから年上の筆者もそろそろ決めねばなどと連想すると、またそのことに曳かれて、整理の手が止まってしまった。ダジャレになるが、「シマッタ」と、それに気が付き、再び書斎を眺めまわすが、早や疲れてしまった。本日はこれまで…。後期高齢者なのに未練たらたらだから情けない。

 先日、思いついてシュレッダーを一台購入したのはよいが、今のところ、試し切りで書類を一束紙屑にしただけで終わっている。足の踏み場のない書斎は、シュレッダーが増えた分だけ狭くなったようだ。興味津々、整理・処分が終わらないので、長生きするかもしれないと、ご隠居はつぶやいている。

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