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エッセイ・コラム

人生観が変わる?

内藤 真理子

「ピラミッドを見ると人生観が変わる」と聞いたことがある。
 そんな凄いものを一度は見てみたい!と思った。そして念願叶い、エジプト旅行に行ってきた。とは言っても、もう三十年も前の話である。
 ツアー一日目、待望のピラミッド見学。
 一面、黄土色の砂漠の前に聳えるピラミッドは荘厳で偉大だった。スフィンクスを前にピラミッドが点在している様子はとても美しく、大勢の観光客も粒ように見える。ラクダに乗ったガードマン?が銃を持って警備していて、写真に撮るとお金を請求されるのは興ざめながら、それは差し引いても、ピラミッドは私のよく知っている、想像した通りのものでそれ以上のものではなかった。
 二日目はカルナック神殿の見学。私にとっては恥ずかしながら名も知らぬ観光地だったのだが、大きな門を一歩入ると美しい彫刻の施された巨大な石柱がずらりと並び圧倒される。
 紀元前千五百年の昔から、この地にはこんな芸術を生み出す文化が存在していたのを目の当たりにして、頭を殴られるような思いだった。
 それぞれの神殿を結ぶ参道には、スフィンクスが整然と並び、神殿の奥には巨大なオベリスクが建っていた。一枚岩の角材のようなこの建造物を創る技術、それを運ぶ技術とは……。
 次の日からも、次々と有名な神殿をまわり、壁に刻まれ美しい象形文字で書かれた絵物語にすっかり魅了されてしまった。
 だが、一番感激したのは最後に行った階段ピラミッドだった。
 クフ王のピラミッドの前身なのに、クフ王のピラミッドの内部にはなかった象形文字が刻まれている。
 階段ピラミッドは今から五千年も前の建造物なのに、それをぐるりと取り巻く回廊が今も残っていた。設計者が木を模して創ったそうで、石柱の縦と横の線がまるで木をつなぎ合わせたように見えた。五千年も前の建築家が、死者を葬る為のピラミッド造るのに、木のぬくもりを施すことを考えたのだろうか。
 この地は、類人猿の時代を素通りして、天から降って沸いた人々が暮らしていたかのような不思議な気持ちになった。
 ほんとうに、人生観がかわったかもしれない。

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