こんにちは、電動旅客機
最近の旅客機のほとんどは、主翼と一体に構成されたパイロンにタ―ボファンエンジンを取り付ける構造である。機体の空力性能向上・CFRP材料の大幅適用による重量低減・エンジン推力の大部分を受け持つファンの大口径化や燃焼ガス高温高圧化による出力と効率向上などの技術革新により長距離飛行を可能にし、燃費を1970年ころに比べて半分以下に低減してきた。
21世紀になって、電動旅客機の開発が急速に進められている。私も時代に取り残されないよう少し勉強してみた。浅学の素人なので誤りがあると思うがご容赦いただきたい。開発の背景としては、(1)今後20年間で航空輸送量が2.4倍に増える見通しであること、(2)地球温暖化抑制対策として、国際民間航空機関ICAOなどが2050年の航空旅客機によるCO2排出量を2005年の半分に減らす目標を設定したことである。
航空機の電動化はおそらく超小型機から始められるだろう。ドローンのような1-3人乗りの「空飛ぶ電気自動車」はリチウム電池を搭載してプロペラを回転させる方式で、騒音と安全対策が大きな課題だが2020年代に実用化されるかもしれない。
CO2排出量低減に最も効果があるのは旅客機である。エンジンの電動化により30年後に燃費を現在の半分以下にする目標が設定されている。超小型機用リチウム電池は50倍も重すぎて旅客機に適用できない。
2030年代に実用化を目指すハイブリッド形式では、主翼に取り付けられる2個のエンジンの他に胴体尾部に1個のファンを追加する。主翼のエンジンに発電機を結合し、交流出力を整流器により直流に変換して、その一部を電池に蓄え、残りをインバータで交流に戻して胴体尾部のモータによりファンを回す。電気系統の冷却用に冷却材を循環するポンプとラジエータも必要になる。これらの電力は電池から供給する。このタイプは、従来機からの修正が少ないので実用化に最も近いが、燃費の改善は10%程度しか見込めない。何よりも現時点では電気系統装置が重すぎる。既存技術による重量の1割程度に低減する必要がある。超電導仕様のモータや発電機が必要になるだろう。この分野では日本の技術も先端を進んでいるようだ。さらに電源電圧も3000Vまで上げる必要があるそうだが、300V以上に上げると放電を生じ易くなることも課題でハードルは高い。
次のステップとして2040年代に実用化を目指すものは、主翼エンジンに燃料電池を追設しガスタービンとの複合サイクルにより発電効率を上げる。燃料電池はSOFC(固体酸化物形燃料電池)で貴金属の触媒が不要、産業用に発売されているが大幅な軽量化が必要だ。燃費の改善は30%程度を見込む。
最後のステップとして2050年代に実用化を目指すものは、主翼に取り付けるエンジンで発電し、得られる電気で機体後部に配置する10個ほどのファンを回転させて推進力を得る。機体の形状は魚の「エイ」のような構造で計画されている。夢のような飛行機だ。
電気系統装置の軽量化については私には分からないが、コンパクトな電動ファンを複数個使えば以下のように機体の軽量化ができると思う。
(1)離陸時にはエンジンは最大推力を出すが、その際にエンジンが1個故障してもバランスをとって上昇しなければならない。推力のアンバランスにより機体が左右方向に旋回しないように垂直尾翼を大きく設計する。電動ファンなら数を増やせるので、1個故障してもアンバランスは小さく、垂直尾翼をコンパクト化できる。
(2)主翼の先端部には、下面から上面に向かう渦が生じるため10%以上の揚力が損なわれる。これを低減するため翼の先端に付加翼を取り付けるが、ファンを取り付ければ揚力の回復ができる。分割された電動ファンの1つならば軽いので、翼先端に取り付けられるだろう。
(3)主翼の面積は、離着陸時に大きな揚力を得るためフラップなどを用いて大きくする。巡航時にはもっと小さくして抵抗を減らすのが良い。鳥が飛び立つときと止まるときに羽を大きく広げ、それ以外では羽を小さく畳むのと同じである。飛行機も離着陸時にフラップなどの大きな構造物を使わないで高揚力を得られればいい。複数の小さな電動ファンなら離陸時に少しティルトして斜め下向きに吹き降ろすことは容易にできるのではないか。そうすれば、小さい主翼面積で上昇できるし機体重量も減らせる。
もう1つ大事なことがある。最近、新型コロナウィルス感染の影響で世界のCO2排出量が相当減っていると聞く。電気やガスなどのエネルギー消費量と共に、旅客機運行も大幅(1/3程度)に減っているそうだ。国際会議やイベントによる人の移動が減少したことも寄与している。CO2排出量をきちんと削減するためには、テレワーク・テレ会議を活用して航空輸送量を減らすべきだ。電動航空機の開発も重要だが、輸送量を減らすことの方がよほど簡単にできる。