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エッセイ・コラム

子育てと本

松浦 俊博

 札幌に居る娘が、2日に一度は家にスカイプしてくれる。主役は5月に1歳になったばかりの孫「博司」だ。いつも口を開けて笑っているのは、娘の小さいころに似ている。ハイハイでアッという間に隣の部屋に行き、椅子などを踏み台にしてテーブルの上によじ登ろうとする。家の中にあるものを全て玩具にして、例えば鍋で床を叩いて喜んでいる。絵本を何冊か買っているが、お気に入りは開くと動物の切り絵が飛び出してくるものだ。飛び出してきた動物を引きちぎって口に入れる。その結果、キリンは首がなくなり、象は鼻がもげている。この絵本にはまともな動物はいなくなった。とても絵を見ている様子はなく、本を食べ物だと思っているようだ。手に掴んだものは何でもかじる。先日、積木を送ったら、さっそく口に入れようとしていた。絵本をちぎらずに、本として見るようになるには時間がかかりそうだ。

 カナダに居る息子も、週に一度くらいスカイプしてくれる。こちらの孫は2歳8か月になる「ホッシー」だ。最近は息子が日本で買った学研の図鑑『宇宙』を見て、指差して「うちゅう」「ちきゅう」などと言う。息子はホッシーに日本語を教えようと、普段から日本の絵本を読み聞かせている。ホッシーは半年くらい前から良く話すようになった。周りの人が話したことを、英語でも日本語でも、そのまま正確に繰り返す。母親がずっと英語でしゃべっていた時に「Say it in Japanese」と言ったので「エッ」と驚いた。

 振り返れば、子供たちが小さかった頃、絵本や学研の図鑑を何冊も買って周りに並べておき、妻が読み聞かせた。今は息子が同じことをしているようで、これが伝承なのだろう。中学では小学館の漫画『世界の歴史』や『日本の歴史』のシリーズを買って子供の本棚に入れておいた。これは二人とも読んでいたようだ。高校から大学ではおそらく反抗期のせいもあって、私とゆっくり話すこともなかったが、物理の有名な教科書『ファインマン講義』を何冊か買って本棚に入れた。これはそのまま家に残っているが、数年前に開いてみることがあった。すると、娘の筆跡のアンダーラインと書き込みを見つけた。本は身の周りにあれば見るものだと改めて感じた。娘は今、大学で物理を教えるとともに陽子線がん治療に携わっている。

 家には子供たちが残していった本がたくさんある。特に息子は本を買うのが趣味かと思うほど色々な分野の本を持っている。私は最近それらを引っ張り出す。物理や数学の専門書はとばして、生物・脳・量子物理・宗教などの一般人向け入門書は読んでみようと思う。おそらく5冊に1冊くらいは読んでよかったとなるだろう。これは、子から親への伝承なのかもしれない。

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