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エッセイ・コラム

新しい日常生活への心得

松浦 俊博

 アガサ・クリスティ作『復讐の女神』では、英国の古い大邸宅で孤立して落ちぶれる姉妹が過去に犯した罪をマープルが冷徹に暴き出す。マープルが姉妹のことについて語る、「The world changed, but they haven’t changed with it」。
 20年ほど前にDVDで聞いたこの言葉は耳に残った。英国では、大戦後の混乱期に社会変化から取り残された人も多かったのだろう。「これは他人事ではない。自分も意識的に努力しないと取り残される。社会の足手まといにはなりたくない」と思った。

 当時、仕事の環境も変わりつつあった。書類や図面のデータベース化が進められていた。手書き図面はなくなり、2次元CAD図面がデータベースに登録されていた。変化は速く、数年経つと3次元CAD図面が急速に広まった。データを社外と共有する必要があり、外部が使用する世界標準のCADソフトに統一されていった。私は3次元CAD図面作成を周りの人に頼むことで、知らず知らずのうちに彼らのお荷物になっていた。
 今回のコロナ緊急事態を経験して、日本がIT(情報技術)分野で大幅に遅れ、米中はもとより韓国や台湾にも水をあけられていることを痛感した。日本人の多くは恥ずかしく思っただろう。何とかしなければ、だが国は頼りにならない。PCやインターネットの極度の素人をIT担当大臣に任命し、役所の怠慢を全く反省しない国なのだ。天才プログラマーをIT担当大臣にした台湾が羨ましい。

 コロナ緊急事態で、民間の在宅勤務や学校のオンライン講義への移行の必要に迫られ、社会が大きく変わりそうだ。リタイアしたOBの我々も努力する必要がある。年を取ると過去の体験に依存しがちだが、「ITは難しくて分からない」と片付ければ社会の化石人間になる。自分の生活を変えて社会の前進を支えていきたい。

 老骨に鞭打ってITに関わろう。その努力は、日本のIT劣等生の汚名返上につながるだろう。ホームページはOBペンクラブでも身近なツールだが、この種のいろいろなツールについて勉強しよう。少し調べれば何ができるのかくらいは判断できるようになり、他人のお荷物にならずに済む。「難しいとかできないと思ったらそこまでだ」という苦い経験は数えきれないほどある。

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